秘密
なんかそれって…
私に…出来るかな?
私にも静さんみたいな魔法が使えるかな?
そんな事を考えると、胸の奥にポッと小さな灯りが灯ったような感じがして、それと同時にワクワクしてきてしまった。
美容師。
やってみたいかも。
「奏ちゃんが美容師になったら、将来俺と一緒に店やろうか?あ。やべ、それなら浪費ばっかしないで、今から貯金しないと」
静さんがそんな事を言うものだから、私は将来静さんのお店で働く自分を想像してしまって、ますます気持ちが高ぶってきてしまった。
…それって…凄く…楽しそう。
「はあ?なんでそうなるんだ?」
佐野君が顔をしかめると、
「いいじゃん、別に、楽しそうだろ?ね?奏ちゃん?」
「うん。凄く楽しそう」
私は軽く興奮気味でそう答えた。
「ははは。家族で店やるのも悪くないだろ?」
…佐野君と家族?…
私の胸の高まりはどんどん大きく膨らんで、今までに感じたことが無いような高揚感で、頭がクラクラしてきた。
「うん!悪くない!」
口から出た大きな声に自分で驚いた。
「奏?美容師になりたいの?」
佐野君は私の大きな声にも全く気にする事なくそう聞いてきた。
「静さん見てて、少し興味が湧いてきた」
「へぇ…悪くないんじゃない?奏の美容師」
「ホントに?…えへへ…しず、お兄ちゃん。もっと側で見ててもいい?」
「うん。いいよ、隣においで」
それから静さんの隣にくっ付いて、その指先の動きに夢中になってしまった。
「はい、修了。お疲れ様でした」
静さんがケープを外しながらそう言うと、佐野君が振り返り、
「もう終わったから、離れて」
と、静さんと私の間に割って入る。
「あっ!まだ動くな!掃除機持ってくる!」
静さんが部屋から出ていくと、私は佐野君の頭に触れてみた。
長めの前髪は眉の辺りまでに短くなって、佐野君の綺麗な琥珀色の瞳が露になって、
「…凄くカッコよくなったね?佐野君」
「そうか?さっぱりはしたかな?それよりも…奏の方が可愛いよ…認めたくないけど、兄貴はやっぱりいい仕事するよ…」
「うん。静さんの掌は魔法使いみたいだね?」
そう言って二人で笑った。