秘密
暫く沈黙した後。
「…………あの……」
視線を泳がす奏。
「……別に…深い意味は無いから…心配なだけだから」
と言って笑ってみせる。
すると奏はまとめた荷物を部屋の隅に置くと、
「……それじゃ……お世話に…なります…」
「はは。そんなに緊張しなくても、ホントになにもしないから」
奏の事が心配なのは間違いないけど、なによりもっと奏と一緒に居たいと言うのが本心だった。
緊張するなと言っても緊張するのが当たり前だよな?
目の前には自分に好意を寄せている男が居るんだから。
でも、奏がいいと言うまでは(多分)何もしないつもり、今日お互いの気持ちは確認出来た。
今はそれだけで満足。
「まだ眠くないよな?冷蔵庫空なんだ、一緒に、コンビニ行かない?」
まだ眠りたくない。
考えてみればこんな風に二人きりになれたのは初めてな気がして、今日を終わらせてしまうのが勿体なかった。
「…うん。行く」
部屋を出ると自然とお互いの手が引き寄せられ、指先が絡まる。
徒歩数十メートルのコンビニへと向かう。
側にあると便利なはずのコンビニも、この時ばかりは役立たずで、少し恨めしく感じるのは、この細く小さな手を離したくないから。
表通りに出ると直ぐ真横にコンビニ。
そこで奏はピタリと立ち止まる。
「…公園まで…お散歩しない?」
思いがけない奏のその提案に俺は、
「行く」
勿論即答で。
コンビニに背を向けて、夜の歩道を奏と二人並んで歩く。
奏の家と俺のアパート、丁度合いなか辺りにある小さな公園。
初めて二人で出掛けたあの日。
帰りにあの公園まで送ってくれと奏が言った時には、うちの近くだったから、奏と近所だった事に少し驚いた。
一年間もその事実に気付かなかった事に、後から思い返すと笑いが込み上げてきた。
凄く近くて遠かった一年間。
でも今は直ぐ隣に、
「……奏」
「何?佐野君?」
俺を見上げる奏。
「……いや、何でもない」
「?…」
繋いだ手を開き、少し力を入れて握り直す。
この手を俺だけの物にしたい。