秘密
「あっ、私コレやる」
私の唯一得意なゲーム。
「テトリス?」
「うん。地道だけど中々奥が深い」
「俺と対戦する?」
「ううん、人が相手だと直ぐに終わっちゃうから…」
「……それって凄く得意だって事?」
「どうなんだろ?ワンコインで全面クリア出来る位?」
「え?コンティニュー無しで?」
「うん」
「…それって凄くない?」
「そうなの?」
「……うん」
ゲームの前に座り大きく息を吸う。
百円を投入して右手をレバーに左手をボタンに。
よし!
先ずは一面。
落ちる速度が遅いからボタンとレバーを使って素早く下に落とす。
はじめはゆっくりだから、ガシンガシンと積み上げていく。
そろそろ崩さないと。
その時に丁度テトリス棒。
やった。
レバーで棒を動かし一気に崩す。
「おぉ…」
後ろに佐野君の声。
私はなんだか嬉しくなって、どんどん積み上げ一気に崩す。
「「「「おぉ…」
あれ?
声が増えてるような?
美樹ちゃん達かな?
まあ、いいや…
集中集中…
落ちるスピードが速くなる。
私の手の動きもそれに合わせて速くなる。
回転、右、右、左、回転、回転。
その度にレバーで落として組み立てていく。
棒がタイミングよく画面の隅に見えると嬉しくなってしまう。
そろそろフィニッシュ。
もうレバーで落とさなくても勝手に素早く落ちてくる。
隙間はなし。
最終面。
最後のひとつが落ちてくる。
それをガシンと嵌め込むと、全消し、テトリス達成。
全面クリア。
「「「「「「「おおぉっ!」
−パチパチパチパチ……
ん?
声が?拍手が?
後ろを振り返ると、沢山の人だかり。
……え?…何?…何なの?
思いきり動揺してしまった。
「……奏…スゲー…」
人だかりの真ん中で佐野君はポカンとしていて。
「…神だ…テトリスの神がここに…」
佐野君の隣に立つ拓也君がそう呟いた。