秘密
「………情けない」
ゲームコーナーを歩きながら佐野君が呟いた。
「え?何が?」
私が聞き返すと、
「…俺、何ひとつ勝ててない…はあ…」
「お化け屋敷で美樹ちゃんに勝ったじゃない」
「……あれは、ジャックが…」
「ジャック?」
「…いや、何でもない」
「遊びなんだから、勝ち負けなんてどうでもいいじゃない」
「いや、やるからには勝たないと…あ…」
佐野君は一台のゲーム機の前で立ち止まる。
見るとそれはバスケのリングにシュートするゲーム。
「はは…結局俺が得意な事って、コレか…」
佐野君はそのゲームに硬貨を投入して出てきたボールを片手で掴んだ。
ボールを構えてシュッ、とボールをあげるとそれはストンと素直にリングに入る。
……途端に胸にチクリと刺が刺さる。
「はは…簡単…」
次から次にシュートを決めて、全てノーミスでクリア。
「佐野君っ、クレーンゲームやろ」
佐野君の腕に手を回し、クレーンゲームが置いてある先を指差す。
「あのね?非売品のベアが入ってたの、私欲しくて、でも、クレーンゲーム苦手なの」
「ベア?ああ、あの熊な、うん。俺が取ってやる、クレーンゲームは得意だ」
言いながら佐野君を引っ張る、早くこのゲーム機の前から佐野君を引き離したかった。
胸に刺が刺さったまま、チクチクと痛むのを知らないフリして足早にその場から離れる。
私の中の醜い感情が、痛む胸の奥からから徐々に広がっていく。
佐野君の腕を掴む手にギュッと力を入れる。
佐野君。
ここに居てね?
私だけ見て。
そう強く願いながら私は必死に佐野君を繋ぎ止める。
…………私…
…ホントに酷い。
佐野君。
私はホントはこんなにも酷い人間なの。
こんなにも貴方の事が好きなの。
どうする事も出来ないクセに。
それでも貴方の事を離したくないの。
佐野君。
………ごめんなさい…