秘密
◆◆◆



観覧車はカタカタと音を経ててゆっくりと上っていく。


そろそろ頂上に届く頃の薄暗くなりかけている空の色は。


茜と青と紫と。


綺麗なグラデーションで夜と昼の境目を、上と下とで複雑に混ざり合いなから、一日の終わりを告げようとしているようだった。


「佐野君?」


俺の膝の上に座り、肩に頭を預けている奏がそう言うと。


「ん?」


奏の頭に頬を寄せている俺は、そこに何度目かのキスを落とす。


「海が見えるね?」

「え?…あ…ホントだ」


見るとくっきりと湾が見渡せて、向こうの水平線は朱色に染まっていた。


「綺麗だね」

「うん」

「今日は楽しかったね」

「うん」

「終わらせたくないね」

「うん」


視界が開けて辺りには何もなく、そこには俺達二人だけの空間になった。


「…頂上だね」

「…うん」


お互い見つめ合い自然と引かれ合う。


触れ合う唇はただお互いだけを求めていて、それ以外は何にもいらなくて。


このまま時が止まってしまえばいいのにとさえ思えてくる。


頭の奥が痺れてしまったような、目眩がする感覚に陥る。


……奏…


この先もずっと……


−−ガタン!


「!ひゃっ」
「!っ」


頂上独特の観覧車が揺れる軽い衝撃が俺達を現実に引き戻す。


「びっくりしちゃった…」

「…俺も」


目を合わせると、自然と二人笑いが溢れた。


「奏のテトリス、驚いた」

「えへへ、あれだけは得意なんだ」

「何?あの手の動き?ギヤラリー背負ってたし、はは」

「あれは私も驚いた」

「美樹ちゃんもあんなキャラだっとは…」

「美樹ちゃんは元々負けず嫌いだよ?佐野君の方こそ…」

「え?売られた勝負は買うだろ?普通」

「そうなの?」

「うん」


なんて。


下りは会話しながら下りていって、短い二人の空間は終わりに近付く。


「また来ような?」

「うん。また来たい」


観覧車を下りると、空はすっかり星空になっていた。






< 303 / 647 >

この作品をシェア

pagetop