秘密


……話?
何だろ?


とりあえず引っ張り出したゲームをそのままに、リビングに戻ると、ソファでまだベアの耳を着けて寝そべっている、父さんの向かいに座る。

「あはは、こいつ面白くないな」

面白くなくて何故笑う?

と、ツッ込みたいけど黙っておく。

「父さん、話って?」


「ん?…ああ」


よっこらしょ、と言いながら父さんは起き上がると、缶ビールに手を伸ばす。


「あれ?空だ…茜、もう一本持ってきてくれ」

「は?飲みすぎだろ?」


テーブルの上には空の缶が4〜5本転がっていて。


「え〜?後一本だけ、お願い」


熊の耳着けたオッサンが上目使いして見せても、可愛くもなんともないぞ?


「……後一本だけだぞ…」


そう言って冷蔵庫から缶ビールを一本取り出し渡す。


「髪の色…元に戻したんだな?」


再びソファに座り直す。


「うん」

「初めてあの頭見た時、父さんびっくりしたよ」

「そう?ノーリアクションだったじゃん」

「いや、結構驚いてたんだぞ?茜がグレたって」

「グレるって、はは…」

「……バスケ出来ないのが余程辛かったのかなって…」

「………………」


あの頭にそんな意味なんて無いのに、父さんはそんな事考えてたのか。


「…高田先生から電話があってな…」


瞬間。

ドキリと心臓が跳ね上がる。


「……へぇ」


ドキドキと徐々に心音が大きく速くなる。


「…茜を、是非アメリカに行かせたいって」


一際大きく心臓が脈打つ。


「茜、お前にその気があるなら、行っても構わないよ」

………父さん…

「…はは、先生にはきちんと断ったんだぜ?…なのに…」

「その話も聞いたよ、でも、茜に行く気がなるなら、費用の事なんか心配するな、父さんにだってその位の甲斐性はある」

「……でも」

「可能性があるなら、やってみる価値はあるだろ?諦めたらそこで試合終了なんだろ?」

そう言って笑う父さんはとても大人らしく、思わず頷きそうになってしまいう自分が居て、暫く目を閉じて気持ちを立て直す。


「…父さん…俺は行かないよ…」






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