秘密
◇◇◇



「じゃ、ソッコー風呂入って来るから、髪、ちゃんと乾かせよ?」


そう言って佐野君が部屋を出ていくと、身体の力が一気に抜けた。



無理矢理作って固まった笑顔にもそれが伝わって、口元が震える。



寒くもないのに、カチカチと歯の音が鳴り出す。



次第に目頭が熱くなって…



ダメ!
泣いちゃダメ!


……聞いちゃった。


…聞いてしまった…


お父さんが……


佐野君に……


アメリカに……


私は頭の奥がジンジンと痛くなり、それを両手で抱えた。



お父さんが佐野君にアメリカに…



この言葉ばかりがぐるぐると頭の中で渦巻いて、軽く吐き気までしてきた。



佐野君のお父さんまでもが佐野君のアメリカ行きを望んでる。



佐野君は今度も行かないって言ってた。



……でも。



……ホントは…



もし佐野君が行くと決めてしまったら?



私はどうすればいいの?



行かないでって、泣いて引き止めるの?



私にそんな資格あるの?



佐野君に好きって言えない。



佑樹に別れてって言えない。



こんな私にそんな事、言える筈ない…



佐野君が見つめるその先は、恐らく、誰しもが望んでいる事かも知れない。



高田先生やリョータ君達、佐野君の家族…



そして。



佐野君自身も……



自信がないって言ってた。
でも、それが確信に変わったら?



佐野君は行ってしまう?



コートの中で鮮やかに跳ぶその姿は、誰の目から見ても佐野君が一流のプレイヤーだと言う事を感じさせる。



バスケをしている、生き生きとした佐野君が大好き。



でも。



バスケは佐野君を遠くに連れて行ってしまう…



…行かせてあげたい。



行かないで居てほしい…



………佐野君。



……私…



佐野君にとって私は……



…邪魔な存在なのかも知れない……



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