秘密
「…はは。だよね?変な事聞いてごめんね?」
「…アメリカ行きの…事ですよね?」
半分になった溶けかけたアイスをくるくるとかき回す。
「知ってたの?」
「…さっき…リビングでお父さんと佐野君が話してるの…聞こえちゃって…」
「……そっか」
静さんは私の髪をさらさらと後ろに流しながら、毛先にドライヤーをあてていく。
「まあ、決めるのは茜本人だけど…もし…」
「嫌ですっ!」
私は両手で耳を押さえた。
…嫌…嫌…嫌!
佐野君と離れるなんて嫌っ!
「……ごめん、奏ちゃん、泣かないで」
「……泣いてません…」
耳に蓋をしていても静さんの声はよく聞こえて、いつの間にかドライヤーのスイッチも切られていて。
「……茜も、多分行かないって言うと思うよ?奏ちゃんの事が好きだから…でもね?お互い離れていても、気持ちが繋がっていれば…やっていけると思うんだ…」
そんな事はわかってる。
でも、私は今、佐野君と一緒に居たいの。
佐野君と過ごす私の未来はもう潰されてしまったから。
今佐野君と出来るだけ一緒に居たいの。
潰されるギリギリのその時まで一緒に居たいの。
これが私のホントの気持ち。
ズルくて汚い私の胸の内側。
自分でもどうしたらいいかわからない。
でも。
今佐野君と離れてしまったら、もう佐野君に会うことは出来ない。
ホントは行かせてあげたい。
行かせてあげたいのに……
「…佐野君…行かないって、言ってました、教師になるって…」
口から出るのはこんな言葉で…
きっと静さんも呆れてる筈。
恋人なのに…その人の未来も思いやれない、酷い女だと思われているに違いない…
「…うん。それがいいね」
「え?…」
静さんの以外な言葉に驚いた。
「好き合ってるんだもん、無理矢理離ればなれになるのは、やっぱりよくない、うん。それがいいよ」
そう言って私の頭を優しく撫でてくれた。
「……静さん、私…」
「でもね?これだけ言わせて、茜は君が思ってる以上に君の事が好きな筈だよ、だからそんな不安にならなくて大丈夫」