秘密


「…はは。だよね?変な事聞いてごめんね?」

「…アメリカ行きの…事ですよね?」

半分になった溶けかけたアイスをくるくるとかき回す。

「知ってたの?」

「…さっき…リビングでお父さんと佐野君が話してるの…聞こえちゃって…」

「……そっか」

静さんは私の髪をさらさらと後ろに流しながら、毛先にドライヤーをあてていく。

「まあ、決めるのは茜本人だけど…もし…」

「嫌ですっ!」


私は両手で耳を押さえた。


…嫌…嫌…嫌!
佐野君と離れるなんて嫌っ!


「……ごめん、奏ちゃん、泣かないで」

「……泣いてません…」


耳に蓋をしていても静さんの声はよく聞こえて、いつの間にかドライヤーのスイッチも切られていて。


「……茜も、多分行かないって言うと思うよ?奏ちゃんの事が好きだから…でもね?お互い離れていても、気持ちが繋がっていれば…やっていけると思うんだ…」


そんな事はわかってる。


でも、私は今、佐野君と一緒に居たいの。

佐野君と過ごす私の未来はもう潰されてしまったから。

今佐野君と出来るだけ一緒に居たいの。

潰されるギリギリのその時まで一緒に居たいの。


これが私のホントの気持ち。
ズルくて汚い私の胸の内側。


自分でもどうしたらいいかわからない。


でも。


今佐野君と離れてしまったら、もう佐野君に会うことは出来ない。


ホントは行かせてあげたい。

行かせてあげたいのに……


「…佐野君…行かないって、言ってました、教師になるって…」


口から出るのはこんな言葉で…

きっと静さんも呆れてる筈。

恋人なのに…その人の未来も思いやれない、酷い女だと思われているに違いない…


「…うん。それがいいね」

「え?…」


静さんの以外な言葉に驚いた。


「好き合ってるんだもん、無理矢理離ればなれになるのは、やっぱりよくない、うん。それがいいよ」


そう言って私の頭を優しく撫でてくれた。


「……静さん、私…」

「でもね?これだけ言わせて、茜は君が思ってる以上に君の事が好きな筈だよ、だからそんな不安にならなくて大丈夫」



< 311 / 647 >

この作品をシェア

pagetop