秘密


静さんは後ろから私の顔を覗き込んで。


「うん。よしよし…あんまり考え込まないでね?そんな顔しないで?茜に殺されるから」


そんな顔って。
私今どんな顔してるんだろう?


「…お待たせ、かな……兄貴、何やってる?」


佐野君は部屋に入って来るなり静さんを睨んで、静さんに後ろから頭を撫でられていた手を掴んで、私と静さんを引き剥がした。


「何って、髪乾かしてあげたの、ね?奏ちゃん?」

「…全く…油断も隙もない…」

と、ブツブツ文句を言う佐野君。

「ついでにお前も乾かしてやる、そこに直れ」


開いた足の下を指差す静さん。


「……なんかムカつく言い方だな…」


そう言いながらも佐野君はそこにあぐらをかいて座る。


「お前なカリスマ美容師にブローしてもらえるだけでもありがたく思え?」

「は?カリスマ?アニヲタの間違いだろ?」

「…なんか言ったか?」

「…別に」


ドライヤーのスイッチを入れると、静さんは佐野君の髪を乾かし始める。


「相変わらずの癖っ毛だな…」


そう言えば静さんと佐野君は顔は似てるけど、髪質は全然違うな。


静さんは黒髪でさらさらの髪質なのに。


お母さんに似たのかな?
佐野君のクセ毛はお父さん似?


佐野君の髪の毛。
ふわふわで気持ちよさそう。


「…あの、静さん?私にやらせて?」


佐野君の髪に触れたくて私がそう言うと、


「兄貴、奏とチェンジ…」

「……はいはい、奏ちゃん?代わろうか?」

「うん」


私は静さんと入れ代わって佐野君の髪を乾かす。


佐野君の髪。

柔らかい、ふわふわ、綺麗。


「奏ちゃん手つきいいね?」

「当たり前だ、奏は俺の専属美容師になるんだから」

「え?奏ちゃん美容師になるの?」

「…まだわかんないけど…なれたらなって…」

「なれるよ、奏、手先器用じゃん」

「ヤバ…ホントに貯金しないと」

「何でだよ?」

「将来奏ちゃんと店開くから、頭金位は稼がないと…」


腕組して真剣に考え込む静さん。


ホントにそうなれたら…


夢みたいだな…


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