秘密


「…母さん」


お茶で寿司を流し込み、俺がそう言うと、母さんはハッとしてバツが悪そうに口ごもる。


「…父さんから何聞いたのかは知らないけど、余計な事言うなよ、寿司が不味くなる」

「…あはは。ごめんね?全然そんなつもり無かったんだけど…」

「…はぁ…父さんにもちゃんと言ったけど…俺…その気無いから…気持ちだけで十分だよ…」

「……あの、私…」


奏が口を挟んできて。


「奏、何でもないから…ほら、マグロ食う?」

「…うん」

「あっ。奏ちゃん、メロンがきた、ほら、食べなさい?それから…お?プリン発見。早く来い早く来〜い…あぁっ。…とられちゃった…残念、あはは」

「…寿司屋でプリンとか食うなよ」

「何言ってんのよ?回転寿司はこれがあるからいいんじゃない、ね?奏ちゃん?」

「…はい。私もプリン食べたいです」

「無いなら頼めばいいのよ。すみませ〜ん!プリン二つ下さぁい」

「…母さん…別注はこのタッチパネルでやるんだぞ?」

「いいわよ面倒くさい、口で言った方が早いわよ」

「…これだから、オバサンは…」

「…何?…なんか言った?」

「いえ、何も…」


奏は運ばれてきたプリンを旨そうに頬張る。


さっき一瞬物凄く不安気な表情を見せた奏。


もしかしたら…

昨日の父さんとの話を聞かれたのかも知れない…


恐らく俺のアメリカ行きの話をされると思っていたんだろう。


……全く。
父さんも母さんも…


行かないって言ってるのに…


やっと想いが通じたんだ。


奏と離れるなんて考えられない…


「奏ちゃん?この後一緒にお洋服見ようか?お母さん、奏ちゃんに色々着せたいたいなぁ」


「は?奏は母さんの着せ替え人形じゃないんだぞ、それに今日は早めに帰るんだから」

「えぇ〜っ?いいじゃない、ちょっと位、お母さんまだ奏ちゃんと全然遊んでない!」


…遊ぶって。
奏は母さんのオモチャか?


「佐野君、そんなに早く帰らなくても大丈夫だから、お母さん?一緒に夏物見ましょう?」

「ホントに?ありがと、奏ちゃん、何着せようかなぁ?…ふふふ…」


……何を着せる気だ?


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