秘密

「きゃあぁ〜♪奏ちゃんそれも似合う〜♪可愛い〜♪ね?おねえさん?可愛いでしょ?」

「ホントに可愛いお嬢さんで、何でもお似合いになりますね?」

「ふふふ。そうでしょ?奏ちゃん、次これ着てみて?」

「……はい」

試着のカーテンを開ける度に繰り返されるこのやり取りも、かれこれ20回以上になる。

奏も始めは喜んでいたけど、さすがにもう限界らしい…

再び試着室のカーテンを閉めようとする奏を阻止する。

「母さん、いい加減にしろよ…奏も嫌なら嫌って言っていいんだぞ?」

「…だ…大丈夫…ははは…」

じゃないな…
顔が引きつってる…

試着室から奏を引きずり出す。


「もう終わり、母さん、帰るぞ?」


後半低い声を出して母さんを軽く睨むと。


「…う…わかったわよう…じゃ、おねえさん?今着てるのと、これとこれ、それからこれ下さいね?」

「はい。ありがとうございます♪」


店員は母さんから服を受け取り、大袈裟に尻を振ってレジへと向かう。


「あのっ、お母さん、いいです自分で払いますっ」

「いいのよ。今日付き合ってくれたお礼。お母さん夢だったんだぁ、可愛い娘と買い物するの」

「じゃ、じゃあ、今着てるのだけで十分です、そんなに沢山頂けませんっ」


店員を追い掛けようとする奏の腕を俺は掴んで。


「いいって、母さんの好きにさせてやって」

「……でも」

「ホントにいいのよ?奏ちゃん、茜の彼女はわたしの娘でもあるんだから、気にしないで?」


母さん、いい事言うね?
座布団一枚。


「ほら、だから気にすんな、行こう、母さん、俺喉乾いた、スタバに行ってるから」

「うん。お母さんもお金払ったら行くから」

「えっ?佐野君っ…あのっ、お母さん、ホントにありがとうございます」


まだ何か言いたげな奏の手を引き、ショップを後にする。


さすがに俺も限界だった。

母さんの買い物に付き合うのは物凄く疲れる…


でも…


今の奏はショートパンツにニーソと言う、萌えポイント満載の服装で、俺のハートをわし掴み、ついでに回りの余計な野郎共のハートまでもわし掴んでいた。


…母さん、いい仕事したね。


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