秘密
コーヒーショップで奏とテーブルに向かい合わせ、アイスコーヒーを一口飲み。
「ふぅ…」
ホッと一息つく。
「…佐野君、疲れた?」
「へ?…いや、奏の方が疲れただろ?何回も着替えて…」
「ふふふ、ちょっとだけね?でもいろんな服着れて楽しかったよ?あんなに何度も試着したの初めて、でも…申し訳ないな…なんか私って頂いてばかりで…」
「いいんだよ、好きでやってるんだから、ほっとけ」
「…すみません、ちょっといいですか?」
突然俺達の会話に女が割って入ってきた。
「は?」
見てみると若い女で、その後ろにはカメラを持った男と、長い棒の先に丸いライトが付いている、恐らく照明らしき物を持った男。
「あの、私達、地元情報誌の編集者なんですけど、今、このショッピングモール内でデート中のカップルの写真撮らせてもらってるんです」
「…はあ」
「来月号で美男美女カップルの特集やる事になって、お二人とも凄いお似合いで、私達のイメージぴったりなんです。よろしければ写真撮らせてもらってもいいですか?」
「はあ?」
「勿論タダとは言いません!このモール内で使える1万円分の商品券をプレゼント!」
…なんだと?
「…やる」
「え?…やるの?佐野君?」
「やろう奏、写真一枚で1万円貰える、地元誌だから、この県内に配付されるだけだし」
「…うん。いいよ、やろうか?」
「きゃあ♪ありがとうございます、出来れば全身写したいんで立ってもらってもいいですか?」
言われるがまま俺達は立ち上がり、コーヒーショップの外に連れ出されてしまった。
…まだ一口しか飲んでないのに…
「この辺でいいかな?じゃ、お二人ここに立って下さいね?」
カメラと照明を当てられた俺達の回りに、軽く人だかりが出来てしまった。
「なんかの撮影?」
「背高〜い、モデル?」
「綺麗な子だなぁ…」
「ちょっと!凄いイケメンなんですけど!」
「何あれ?芸能人?」
…あれってなんだよ、あれって…
少なくとも人間だぞ?
あれ呼ばわりすんなよ。
「…さ、佐野君…なんか…人が集まって…緊張しちゃうね?」