秘密


「そんなに緊張する?」

「…うん、佐野君は平気なの?」

「割りと…」

「どうして?」

「注目されんの慣れてるから?かな?」

「…ふふ、何それ?」

「俺って目立つだろ?デカイから、はは」


なんて、奏の緊張を解そうと会話していると。


「彼女さ〜ん♪彼氏にギュッと抱きついてみて?」


カメラを構えた男がそう言ってきて。


「えぇっ?!…むむむ…無理でしゅっ!」


余計に緊張してしまった奏。

しかも噛んでるし…


「じゃあ彼氏さん♪後ろから抱きしめて?」


了解。


奏の後ろに立ち、少し前屈みになって言われた通りにする。


「いいっ!凄くいい!」


ノリノリでシャッターを押しまくるカメラマン。


「!っ…ささ…佐野君?」

「何?」


恥ずかしがる奏が可愛くて、調子に乗って奏の頬に顔をくっ付ける。


「…は…恥ずかしいんだけど…」

「俺は平気だけど?」

「……うぅ〜…」


カメラマンは近付いたり離れたり、いろんな角度からシャッターを押していて、一体何枚撮る気なんだと、俺は少し呆れてしまった。


「はい。お疲れ様です。ご協力ありがとうございました。お陰でいい絵が撮れました」


撮影が終わると、いつの間にギャラリーの数がかなり増えてしまっていて、俺達の回りを取り囲み、拍手を贈られたり口笛を吹かれたり、野次を飛ばされたりされてしまった。


「あのっ…あ…ありがとうございましたっ」


何故かそれに深々とお辞儀を返す奏。


商品券を受け取り、ギャラリーに軽く手を振ってその場から離れる。


「あー。恥ずかしかった…」


両手で頬を押さえ、歩きながら奏はそう言って。


「そうか?俺は結構面白かった」

「佐野君は何に対しても落ち着いてるよね?私なんて直ぐにあがっちゃって…佐野君が羨ましいよ…」

「俺だってテンパる時もあるぞ?」

「え〜?嘘だぁ、いつも冷静じゃない」


知らないだろ?


あまり表には出ないかも知れないけど。


自分でも情けない位に俺が冷静さを無くすのは、いつも奏に対してなんだ。



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