秘密



「お父さん、行ってくるね」


ダイニングキッチンのテーブルで新聞を読んでいる父に声をかけながら、アパートの狭い玄関でスニーカーを履く。


「佑樹くんと出掛けるのか?」


ドキリとした。


「えっ?ううん、違うよ。友達と…」

「そうか。最近佑樹くんとは休日あまり会ってないんじゃないか?」

「…佑樹も色々と忙しいんだよ…前生徒会長に会長指名されたから…うちの学校、生徒会役員は後任は指名制なんだよ。学校では毎日会ってるんだから、休みの日位はのんびりさせてあげないと…」


「そうか。佑樹くん生徒会長か、彼は優秀だからな」

「…うん。お昼は冷蔵庫に用意してあるから、温めて食べてね?じゃ。行ってきます」

「わかった。いつもありがとな、行ってらしゃい」

父の声を背中に聞きながら、ドアを開け外に出る。


……ふぅ…

なんか罪悪感。

ごめんねお父さん、嘘ついた。


佐野君は友達なんかじゃないんだよ。


……友達じゃない…


友達でもない。

ましてや彼氏でもない。

私の浮気相手なんだよ…

佐野君もそう思ってるはず…


でもそれでもいい。

佐野君と居ると私は心地いいから。

ドキドキしたりもするけど、彼の優しさに触れてしまったから。

佑樹とだとこんな気持ちにはならない。

今まで知らなかった感情が溢れ出してくる。


こんな気持ちになった事ないから、戸惑う事もあるけど、でも、なぜか心が暖かくなる。

悪い事してるのに、それすらも忘れそうになるほど。




私はバックから帽子を取り出し、深目にかぶる。


一応変装。


アパート近くのバス停からバスに乗り込み、駅前通りへと向かう。


携帯を取り出し、時間を確認。

10時35分。

駅前通りまでバスで15分程度。

約束の時間丁度いい位に着く。


佐野君、駅前って、電車でどこかに行くつもりかな?

人の目もあるし、遠くに出掛けるのかな?


まさに本当に山歩き?


ふふふ。


それもいいかもね?


のんびりお喋りしながら歩くのも楽しそう。

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