秘密



「…じゅ、10万円っ?!」


カケルさんの両手の五本指をじっと見つめる美樹ちゃん。


「茜にはそれ位の価値はある、なんなら20出してもいい…」

「……20万…」


美樹ちゃんは徐に携帯を取り出し、何処かへ電話をかけ始めた。


「あっ、佐野君?かなちゃんがピンチよ!今すぐ駅前ビルのカケルさんのお店に来て!」


そう言うと電話を切ってしまった。


…え?…私…ピンチなの?


「…ふふふ、10分以内に来るわね?」

「…いや、7分以内と見たね?」


同じような表情で笑う美樹ちゃんとカケルさん。


…なんか二人とも雰囲気似てる?


「なんか訳わからんけど、オーナーと美樹ちゃんは似てるな?」


呆れ顔の高宮さん。


「今日は試作品の品評会なのよ?翼ほらあんた、これテーブルに運んで」


木村さんから言われて近藤さんが色々なスイーツが沢山乗った大きなトレイをホールに運び出したので、私もそれをお手伝い。


「近藤さん?こっちにいいですか?」

「うわ…近藤さんとか止めて…痒くなる…翼でいいよ」

「翼さん?」

「早口言葉みたいでやだなそれ」

「じゃあ、翼君?」

「うん。それ!それでよし!敬語も必要無し、仲良くしよ?奏ちゃん?」


歳の割りに幼く感じるその笑顔に、同世代のような親近感がわいてしまった。


「うん。翼君」

「………ヤバ…」

「え?何が?」

「……いや、奏ちゃん、彼氏とか…居る?」

「へ?…彼氏…ですか?」

「……うん」


どう返答していいか言葉に詰まっていると。


「奏っっ!!」

「ひゃあっ!」


思わずトレイをケーキごと落としてしまった。


「えっ?佐野君?何で?」


佐野君はツカツカと私の前まで歩いてきて、人目も憚らず私を抱きしめてしまった。


「わあっ!佐野君っ、離してっ」


必死に抜け出そうとするけれど、佐野君の力に叶うはずも無く。


「…よかった、とりあえずは無事だな?何があった?」


私を抱きしめたまま佐野君が聞いてきて。


「……ケーキ…落としたの」

「……は?」



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