秘密
「だから、やらないって…」
佐野君はうんざりしたように美樹ちゃんに訴える。
「何でよ?いいじゃない週一位…」
「掛け持ちとかしたくないし、響屋が忙しいし、それにこんな甘い匂いに囲まれてたら、それだけで胸焼けする…」
「メイドなかなちゃん…可愛いだろうなぁ…」
「……う」
「…かなちゃんにオーダー取られたいが為に、行列が出来るかも?…ね?カケルさん?」
「そう!それが狙いなんだよ、美樹ちゃん」
ビシッと人差し指を美樹ちゃんに向けるカケルさん。
私がメイドになっても行列なんか出来ないと思うけど…
「おい、お前…これ食ってみろ…」
高宮さんがぶっきらぼうにそう言って、佐野君の前にお皿を置いた。
「…悪いけど、俺、ホントに甘い物は…」
「いいから、食ってみろよ、甘くないから、そこまで拒否られると職人の腕がなる」
佐野君はお皿の中をじっと見つめてそれに手を伸ばす。
一口食べると。
「……旨い」
「だろ?」
ガラリと表情が変わって、わははと笑う高宮さん。
「これ何て言うお菓子?」
「胡桃入りの普通のスコーンだ、本来なら特製のメープルシロップかけるんだけとな?他にも甘くないスイーツは沢山あるぞ?スイーツ=只の甘いお菓子って勘違いしてないか?スイーツはな?人を笑顔にさせたり、元気にさせたり、脳にだっていいんだぞ?チョコを一口でも食べると脳を一瞬で活性化させるんだ、まあ、食べ過ぎは良くないけど、とにかく、スイーツは奥が深い、俺がこの世界に入ったのは……」
延々と語り始めた高宮さん。
一方佐野君はお皿のスコーンを全部平らげてしまっていた。
「旨いけど、喉に詰まるな、ねえ?キャプテン、お茶、おかわり」
翼君に向かってティーカップを持ち上げてみせた。
「だから、キャプテンじゃねえって!」
言いながらも佐野君のカップに紅茶をそそぐ翼君。
「ほら、翼。次の出来たよ、オーナーに運んで」
厨房から木村さんに呼ばれて慌ててそちらに向かう翼君。
みんなカケルさんが言ってたようにいい人達ばかり。
初めてのアルバイト。
楽しくやれそう。