秘密
「茜くんたら、奏ちゃんばっか目で追ってる…」
目の前に座るアスカが、何やら激甘そうなケーキを頬張りながらそう言ってきて。
「かなちゃんも可愛いけど…美樹だって負けてない…」
拓也がロールケーキを一本丸ごとかぶり付く。
よくそんなの食べれるよな?しかもそれ、2本目だろ?
匂いにだけでも胸焼けがしてくるのに、目の前でそんなにガツガツ食われると、思わず目を背けて奏を目で追うのは当然の事。
甘い臭いをコーヒーで誤魔化しつつ、世話しなく店内を動き回る奏を目で追う。
トレイを抱えて動き回る奏はあちこちのテーブルで笑顔を振り撒き、俺の見る限りでは少なくとも、10人以上の野郎共の胸を撃ち抜いていた。
ケーキ屋だから安心だと思っていた俺が甘かった…
店内三割位は男の客。
カケルの狙いはまさにこれだったんだと、改めて実感してしまった。
あの笑顔見たさにリピーターが増えるはず。
カケルめ…
どこまでも食えないやつ…
「ね?二人ともこれから少し時間ある?」
激甘ケーキを食べ終えて、紅茶を啜りながらアスカが口を開いた。
俺の瞳は奏を捉えたまま。
「いや、俺達二人ともこれからバイトだから…」
「ちょっと位いいじゃない、せっかくオープニングセール沢山やってるのに…色々見て回りたいなぁ」
「アスカちゃんだって仕事だろ?」
「今日は休み…ここに来る時にチラッと見て回ったんだけど、一人じゃつまんなくて…」
「キョンちゃん呼べば?」
「キョンもバイトでしょ?」
「いや、キョンちゃんは今日は休みだよ、電話してみたら?」
「……来るかな?」
「飛んで来るよ」
「仕方ない…キョンで我慢するか」
そう言いながら、バッグの中から携帯を取り出すアスカは何処か嬉しそうに見えて、もしかしたらアスカは恭介を…なんて思ってしまって。
「アスカさんって、キョンさんが好きなの?」
無防備な子リスのようにロールケーキをむさぼり食っていた拓也が、そんな事を事を聞いてくるから。
「なっ…何言ってんの!すっ…好きな訳無いじゃん!」
アスカは真っ赤になって携帯を床に落としてしまった。