秘密



佐野君のバイクがゆっくりとコンビニから道路へと向かう。


動き出したバイクに私は目をつぶり、ギュッと佐野君にしがみつく。


お腹に回した私の手を佐野君は軽く握ると、


「奏、すぐに慣れるから、リラックス。慣れたらスゲー気持ちいいから」

「……うん。頑張る…」

「おう。頑張れ」


そう言うと佐野君は徐々ににスピードを上げていった。


車とは違い、身体中でそのスピードを感じる。


だんだんとそのスピードに慣れてきた私は、恐る恐る目を開けてみた。


知っている町並みが次々と流れていって、とても新鮮で、少し慣れてきたのか、周りを見る余裕がでてきた。


だから佐野君、服装指定してきたんだ。


確かにワンピースじゃバイクには乗れないな。


山歩きじゃなかった。はは。


「佐野君?」

「何?聞こえない!」

「今日、どこいくの?!」

「俺の地元!海がスゲー綺麗なところ!」

「地元?」

「隣の県だから、ちょっと遠いけど!それとも奏はどっか行きたいとこある?」


佐野君の地元。

海。

行ってみたい。


「ううん!別にないよ!」


私はさらに大きな声で答えた。


「よし!決まり!1時間半位かかるけど、時間大丈夫?」

「うん!大丈夫!」


もっと遠くてもいい位。


私は佐野君の腰に回した手にギュッと力を込めた。


だんだんとバイクの後ろにも慣れてきて、佐野君がさっき言ってた、カーブを曲がる時の体重移動のコツも掴んだ。



気持ちいい。


ホントに気持ちいいね、佐野君。


佐野君がバイクに乗るなんて全然知らなかったよ。


そんな話しはしてなかったし。


また佐野君の事知れて嬉しい。


佐野君の地元。


海が綺麗って言ってた。


また1つ佐野君の事を知った。


今日は沢山の佐野君を知る事が出来そう。


学校とは違うから、コソコソしなくてもいいんだよね?



「佐野君!」

「何?」

「気持ちいいね!」

「ははは。だろ?」



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