秘密
ヨースケのチームの勝利で試合終了。
最後に整列して挨拶を終えてベンチに戻って来るヨースケ。
貴司がタオルを差し出しそれを受け取り首にかけ、グイグイと額から流れ落ちる汗を拭きながら、俺の前にやって来た。
「洋ちゃん、お疲れ、ナイスプレー」
「あはは。おう、お前に見られてると思うと、気合い入ったよ」
「……車椅子バスケ…凄いね?」
「だろ?」
「うん。生で見たの初めて、ルールも普通のバスケと殆ど変わらないね?」
「さすが佐野茜、もうそこまで分析出来たか、まあ、バスケやってるやつならちょっと見ればわかるか?あははは」
「……洋ちゃん、俺、バスケは、もう…」
やってないんだ、と言おうとしたんだけど。
ヨースケの前で、その言葉が出て来なかった…
「茜っ!」
貴司の呼ぶ声に顔を向けると、シュッ、と俺にボールを投げてよこすもんだから、咄嗟にそれをパシッと掴んだ。
「洋ちゃんにお前のシュート見せてやれよ!」
「……え?」
…シュート?
片足を失ってまでもなおバスケを続けているヨースケに…
俺がシュートを見せる資格があるんだろうか?
「…見せてくれ、佐野…今のお前のシュート、俺に」
「……でも、バッシュが無いよ」
「お前のサイズいくつ?」
「……29」
「あはは。俺と同じ、俺の貸してやる、貴司っ。俺のバッグからバッシュ出してくれ!」
「了解〜♪」
貴司は隅に置いてあるバッグ中から真新しいバッシュを出して来て、俺の足元にそれを置いた。
「…洋ちゃん、コレ、新品じゃない?」
「新品じゃないよ、走らないから、痛まないだけ…」
「……あ」
俺ってば少し考えればわかる事なのに…地雷を踏んでしまった。
「ははは。そんな顔すんなよ、そのバッシュも走りたがってる、だから気にせず履いてくれ」
「………わかった」
スリッパを脱いで久しぶりにバッシュに足を入れる。
軽く足踏みすると、キュッキュッ、と床を擦る音。
「…やっぱいいな、その音」
ヨースケが小さく呟くのを、俺は黙って聞いていた。