秘密
無意識に左膝を強く掴んでしまっていた。
俺だっていまだに忘れる事なんて出来ない。
「……でも、俺はお前がまた必ず復活してくるって信じてた…
俺だって片足は無くしてしまったけど……
こうやって今でもバスケを続けてる…
さっきのお前のシュート。
見てて鳥肌が立ったよ…
お前は今でもバスケが大好きなんだって。
なのに何で何処にも佐野茜の名前が出て来ない?
靭帯断絶はスポーツ選手にはよくある事だ、上手く付き合って行けば、普通にプレーが出来る筈。
………佐野。
何でやらない?
何か理由があるのか?」
真っ直ぐに俺を見つめるヨースケから視線を反らす事が出来ない。
「もう…バスケが嫌いになったのか?」
「!っ、そんな事っ!」
ある筈がない……
人に指導したいなんて…
そんなの嘘っぱちだ……
自分自身が走りたい…
誰よりも高く跳びたい…
あのコートの躍動感を何度でも感じたい。
…………俺。
バスケットが……
……大好きだ。
「だったら、諦めるなよ…お前には……走る事も、跳ぶ事も出来る…立派な足があるじゃないか…」
「……洋ちゃん…俺…正直…自信が無いんだ…」
「は?…自信満々なやつなんて居るもんか、そう見えたとしたら、それはそいつが人並み異常に努力したって事だ。努力するからこそ自信が生まれる。自信を付けたいんなら先ず努力しろ、努力もしないで自信が無いなんて、情けない台詞、あの佐野茜が吐くなよ」
ヨースケが自信満々に見えるのは、きっと、血ヘドを吐くような努力をしたから…
二回目の手術の後のリハビリもそこそこに、逃げ出して来てしまった俺には、そんなヨースケが眩しくてたまらなかった。
片足を無くしてしまったと言う事実を受け入れるのに、どれ程の苦痛があったのかは、当事者でない俺には計り知れないけど。
それでもなおヨースケは立ち上がり、再びコートの上に立ってる。
…………俺も…
…ヨースケのように…
…また…バスケがやりたい。