秘密
「…うん…試合?…今度の土曜?ちょっとその日は…午前中?…だったら大丈夫…うん……」
キッチンに立ちながら、佐野君の会話がどうしても耳に入ってくる。
佐野君…土曜日に洋ちゃんの試合を見に行くのかな?
「…うん。わかった…ははは…じゃあね、洋ちゃん」
佐野君は電話を切ると。
「土曜日の午前中さ?洋ちゃんの練習試合があるんだけど…奏も来る?」
そう聞いてきた。
車椅子バスケの試合。
正直、どんな物か興味はある。けど……
佐野君とバスケット…
その結び付きが私にはどうしても不安になってしまう…
「…どうする?」
佐野君がもう一度聞いてきて、断る理由も見当たらないから…
「…うん…行く」
「午前中は洋ちゃんの試合で午後からは俺んちかぁ…ハードスケジュールだな、はは」
楽しそうに笑う佐野君。
佐野君から洋ちゃんの話を初めての聞いた時、いつもの佐野君と違って、まるで子供みたいに瞳を輝かせて興奮気味に熱く語っていて、私はそれを聞いていて、チクンと棘が刺さったように胸が痛んだ。
「あ。リョータ達の全国大会、8月の、19、20、21だから」
「え?三日間もあるの?」
「うん。19が予選、20が決勝トーナメント、21が準決勝以上の試合、9ブロックに分けられた地域予選を勝ち上がった23校に、開催都道府県からの1校を加えた24校が出場するんだ、今年はS県のY市で開催される。
全出場校を3校1グループの計8グループに分けて、予選リーグを戦って、各グループ上位2校がノックアウト方式の決勝トーナメントに進んで、勝ち抜けば優勝…」
一気に話す佐野君に、私は着いていけず…
「……なんか、よくわかんないけど、とにかく、凄く大変そうなのは伝わってきた…」
「ははは、うん、スゲー大変、万全の態勢と、後は気力と精神力…でも、あいつ等なら、きっとやれる…」
表情が一転して、真剣な顔付きになる佐野君。
また、チクンと胸が痛んだ。
佐野君…
バスケット……
…また……やりたい?
私は喉まで出かかった言葉を無理矢理飲み込んで、キッチンで炒飯を作る事に専念した。