秘密
早速土日の連休を美樹ちゃんと二人でお願いしたら、カケルさんは快く了承してくれて、午後から美樹ちゃん達と電車で佐野君の地元に行く事にした。
美樹ちゃんは、タダ宿♪タダ飯♪と、仕事中に鼻歌まじりに歌っていて、凄く嬉しそうで、私もつられてハミングしてしまっていた。
佐野君と花火大会。
佐野君と海。
しかも美樹ちゃんと拓也君も、この夏休みの一代イベントを一緒に過ごせるなんて、考えただけでも口元が緩んでしまって、お客様に変な風に見られてないかと、何度も口元を引き締めてはまた緩んで…
今日のアルバイトは完全に浮かれてしまっていて、オーダーを間違えてしまったりと、失敗をしてしまった私……
お店が閉店する頃にはいつも以上に疲れてしまっていた…
既に高宮さんと春名さんは明日の仕込みを始めていて、私は疲れた身体を引きずりつつ店内の掃除をしていた。
美樹ちゃんと床のモップがけをしていると翼君がテーブルを拭きながら。
「海かぁ…俺も行きてぇ…」
「……ごめんね、翼君…私達だけ…」
「あ。ごめん、そんなつもりじゃ…はは…どうせ彼女も居ないし…仕事忙しいし…」
「……彼女、欲しいの?」
「そりゃ欲しいさ!この店可愛い子ばかりなのに、みんな彼氏持ち…オーナーの陰謀だ、絶対に…」
ブツブツと文句を言い出す翼君にカケルさんが寄って来て。
「翼、まだ半人前のお前には彼女なんて早すぎる、先ずは早く一人前になれ、そしたらいい女紹介してやるよ、あははは」
「マジですか?実は俺、新作考えたんです。よかったらオーナーの意見聞かせて下さい!」
「…新作だと?…どんなんだ?」
「巨峰のタルトです」
「………巨峰のタルト…」
「…オーナー、ヨダレが…」
「…じゅる…よし!明日それ作れ!俺が試食して、旨かったら夏のメニューに加えてやる!」
「ホントですか?そしたら女の子紹介してもらえますか?」
「おう。旨かったらな」
「イエスッ!俺、明日の発注、巨峰追加して来ます」
嬉しそうに厨房に駆けて行く翼君、その背中を見送りながら美樹ちゃんが。
「カケルさん、翼君の操縦が日に日に巧みに、さすが腹黒…」