秘密
「お疲れ様でしたぁ」
いつものように挨拶をして美樹ちゃんと二人、厨房を出て裏のバックヤードからお店を出る。
美樹ちゃんとはシフトが同じだから、帰りもいつも一緒。
今日は遅番でラストまでだったから、明日は朝から。
シフトも夏休み用になってるから、普段より沢山働ける。
お父さんも仕事が忙しいのか、最近は帰りも益々遅くて、殆ど夕飯も家では食べなくなってしまった。
帰って来ても自室に閉じ籠り、深夜まで持ち帰りの仕事に追われているみたいで、身体は大丈夫なのかと心配になってしまうけど、私が大丈夫かと訪ねても、笑って大丈夫だとしか答えないお父さんは、ホントに仕事に夢中になっているみたいで、以前の会社に勤めていた時みたいに、活力に溢れているみたいだった。
進路の相談なんかもしたいんだけど、そんな風に最近はすれ違いが多くて、専門学校に行きたいと言う事は、まだお父さんには言えないでいた。
お父さんの恋人の成美さんとは、何度か三人で食事に出掛けた。
綺麗でとても落ち着いた女性で、36歳、バツイチ、子供無しと言う事だけは聞いている。
…て、言うか。
私が聞きもしていないのに、自分から話してくれた。
恐らく…お父さんと成美さんはお互いに再婚を考えているんだろうな…
そうなってしまったら私はどうなるんだろう?…
卒業したら家を出ようか?
確か寮完備の専門学校もあった筈。
……………なんて。
実際問題そんな事、許してもらえる訳無いだろうけど……
「…だね?かなちゃん」
「え?…何?美樹ちゃん」
やだ、私ったら考え込んでて、美樹ちゃんの話、聞いてなかった。
「土曜日、楽しみだねって言ったんだよ」
「あ。うん、凄く楽しみ」
「浴衣持って行こうか?」
「浴衣?…私、持ってないや」
「あたしの貸してあげようか?」
「え?いいの?」
「うん。あたし今年新しいの買ってもらったんだ、たがら、去年着てたやつだけど、それでよかったら貸すよ?」
「わあ。ホントに?ありがとう、美樹ちゃん」
浴衣着て花火大会。
益々楽しみ。
佐野君と過ごす初めての夏。
……今は余計な事考えないで、夏休みを楽しむ事を考えよう。