秘密
「ああ、黒助の飼い主かぁ、ちょっと待ってて…」
そこでプツリとインターホンが切れて、玄関に明かりが灯り、人影が見えて引き戸が開かれた。
そこに立っていたのは、佐野君よりも少し背の高い大学生位の男の人。
「あのっ…うちのシロ…お邪魔してませんでしょうか?」
私はその人を見上げてそう訪ねると。
「…あ……えっと………ああ、あの猫シロって言うんだ?うちに居るよ、ばあちゃん!」
そう叫んでその人は玄関を上がって家の中に入ると、私はその場に立ち、ここにシロが居るんだと安心した。
半分空いた開き戸から男の人の背中を見ていると、少し歩き方がぎこちなく、怪我でもしてるのかな、なんて思いながらその背中を見送った。
外側は和風な佇まいなお家だけど、中身は洋風でバリアフリーになっているみたいで、廊下には手すりが設置されていた。
男の人が部屋に入ると何やら話し声が聞こえてきて、その部屋から年配の女性が顔を覗かせて、にこやかに私に近づいてきた。
「あなたが黒ちゃんの飼い主さん?」
年配の女性は笑顔でそう言うと、私もつられて笑顔になってしまった。
「はい。そうです、黒猫ですけど、シロって言います、よくこちらのお家にお世話になってるみたいで…いつもありがとうございます」
私はぺこりと頭を下げた。
「いいのよ、年寄りの独り暮らしで、寂しいから、うちのハルとも仲良しで、あ。うちのハルも紹介しますね?どうぞ、上がって?」
ハル、と言うのはこのお家の猫ちゃんだろうか?
それともさっきの男の人だろうか?
「え?でも、もう遅いですし…また改めてご挨拶に伺います」
「あら、残念…こんなに可愛らしいお客様、久しぶりなのに…でも、本当に遅いから…今日はここまでにしましょう…」
おばあさんはホントに残念そうな顔をしてそう言って。
「また、明日伺います」
「え?本当に?」
「はい、必ず」
「約束よ?」
「はい。約束します」
嬉しそうに笑うおばあさんの後ろから、さっきの男の人がシロを抱いて戻ってきて、私はシロを受け取るとギュッと抱きしめた。
「よかった、シロ…凄く、心配したんだよ?」