秘密
触りたい。
そう言えばまだ髪に触った事なかった。
髪に触ろうと手を伸ばしかけた時、奏は石段を降りると手を離し、波打ち際に向かって駆け出した。
「きゃあぁ〜!海だぁ〜!」
やり場の無くなった俺の手。
はは。
まあいいや。
奏が楽しそうだから。
「奏ー、走ると転ぶぞー?」
「佐野君もおいでよ!凄く綺麗だよ!」
俺に手を振り、ピョンピョンと跳ねる奏。
マジで学校とは別人。
可愛すぎる。
俺も奏に向かって走り出した。
「あっ。ちっちゃいカニ」
奏は砂浜と波打ち際ギリギリの所にしゃがみこみ、カニを摘まんで俺の方を見て笑った。
奏と初めて合った時の笑顔だ。
俺はまたあの時の笑顔に会うことが出来た。
いつもどこか悲しそうに笑っているけど、今日はホントに楽しそうに笑ってる。
奏はカニを波に逃がして立ち上がり、横に立つ俺を見上げニッコリと笑う。
「佐野君、連れてきてくれてありがと、海なんて久しぶり」
「ははは。俺も久しぶり」
「ここが佐野君の育った街なんだね?いい所だね」
「田舎だけどね?」
「そんな事ないよ、素敵な所だよ」
「少し歩こうか?向こうの方に今でもやってる売店があるから、喉乾いた」
そう言って再び奏に手を差し出す。
「…うん」
今度は直ぐに手を繋ぎってくれた。
なんか嬉しい。
砂浜を二人で並んで歩く。
「佐野君の家はここから近いの?」
「うん、20分位かな?あ、あそこに学校が見えるだろ?あれが俺が通ってた中学」
道路の向こう側、少し高台を指差す。
「海沿いの学校なんて素敵、ね?行ってみたいな」
…う〜ん。
正直あまり行きたくないな、日曜でも部活はやってるだろうし。
知ってる奴に会うかもしれない。
…今の俺……
見たらなんて言うかな?
気付かれないかも?はは。
でも、奏が行きたがってるなら、
「いいよ、行こうか」