秘密
道路沿いを20分程歩くと大きな川が流れている橋の近くまでたどり着いて、吹いてくる風も何処と無く涼しく感じられ、ほのかに潮の香りがして、この河川敷が海に近いんだと言う事が伺えた。
橋の下の土手沿いは広い芝生に覆われていて、その坂の下には公園や東屋の休憩所、ボード乗り場などがあり、自然の遊戯場みたいになっていた。
橋の向こう側には夜店が沢山出ているみたいで、回りを歩く大勢の人達も浴衣を着ている人達が増えてきて、皆同じ方向に向かっている。
「あっ、夜店が見えてきた、美樹、早く行こっ」
拓也君が美樹ちゃんの手を引き、橋の下の石段の階段を降りて行き、私達もその後に続いた。
橋を降りると今は夜なのに、夜店が立ち並ぶ土手沿いは昼間のように明るくて、夜店を行き交う沢山の人達で溢れ返っていた。
「佐野、花火、何時から?」
拓也君が振り向いてそう聞いてきて。
「8時から」
「まだ少し時間あるな、何か食おうぜ、俺腹減った」
「俺も腹ペコ…」
「あっ、拓也、イカ焼き、あたし食べたい」
美樹ちゃんが拓也君を引っ張って、人込みの中に入り込んでしまった。
「あっ、美樹ちゃんっ」
佐野君の手を離し後を追ってみたけど、沢山の行き交う人込みに押されてしまって、美樹ちゃんの姿を見失ってしまった。
キョロキョロと辺りを見回すけれど、二人の姿は見当たらない。
……イカ焼きって言ってたよね?
えーと、イカ焼きのお店は……
「佐野君、イカ焼きのお店って何処?」
言いながら振り返るとそこに佐野君の姿は無く。
………どうしよう
…佐野君ともはぐれちゃった……
「奏っ」
グイッと後ろから腕を掴まれ。
「一人で行くなよ、はぐれるぞ?」
「佐野君…」
よかった…佐野君、居た…
佐野君は私の掌をしっかりと握ると。
「もう離すなよ?またはぐれるから」
「…うん、ごめんなさい」
「腹減った、俺達も何か食お」
「でも、美樹ちゃん達は?」
「別行動、って事で…行こ」
そう言ってにっこり笑うと佐野君は、私の手を引いて人込みの中を歩き出した。