秘密



「奏、何食う?」


私の手を引き、少しだけ斜め前を歩く佐野君が振り返って聞いてきた。


いつもと違い、かなり大人っぽくて艶のある笑顔にドキリとしてしまう。


今日の佐野君って…
心臓に悪い……


「…えーと…何があるだろ?」


私もお腹が空いてしまっていて、何のお店があるだろうかと、周りを背伸びして見てみたけど、人だらけで何のお店が出ているのか全くわからない。


「…人が多過ぎて、よく見えないや…」

「見えない?なら…」


佐野君は目の前に前にしゃがみ込んだかと思ったら、私の太股辺りに両腕を回し。


「よっ、と」

「え?…わあっ!」


急に視界が開けて目線が一気に高くなり、私は佐野君に立て抱きに担がれてしまった。


「さっ、佐野君下ろしてっ、わっ!」


グラリとバランスを崩してしまいそうになり、佐野君の肩にしがみつく。


「これならよく見えるだろ?」


確かによく見える……


長身の佐野君よりも頭の位置が高くなって、行き交う人達の頭を上から見下ろせる位…


…けど………


周りの人達から好奇の目で見られてしまって……


「……恥ずかしいよ…佐野君…」

「そうか?…で、何食べたい?」

「下ろして…」

「何食べるか決めたらね?」


そのまま佐野君は歩き出してしまった


「わっ、えっと…焼そば!焼そばが食べたいですっ」


目の前に焼そば屋が目に入ってきたから、とりあえず慌てて私はそう言った。


「焼そば?…ああ、あそこね」


佐野君は私を抱えたまま焼そば屋へと歩いていく。


「あの、下ろして、佐野君…」

「嫌」

「え?…嫌って…重いでしょ?」

「全然」

「お願い、佐野君…恥ずかしいから…」

「……わかった」


渋々と言った感じで佐野君は腕の力をフッと抜くと、私は佐野君を伝ってするすると地面に着地。


佐野君はそのまま私の背中に手を回し、軽く唇にキスを落とし、私はもっと恥ずかしくなってしまい、カッと一気に顔が熱くなってしまった。


こんな人込みの中で…
……ホントに今日の佐野君。
…心臓に悪いよ……



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