秘密
お腹に響く大きな音と共に、夜空いっぱいに輝くこぼれ落ちてきそうな程の大輪の花。
色とりどりの幾つもの花が降り坂なり、私の横で夜空を見上げている佐野君の横顔をその色に染めていく。
「……そろそろクライマックスかな…」
呟く佐野君に私は再び夜空を見上げた。
ドンドン、と、何度も連発して。
咲いては散り。
咲いては散りを繰り返す。
夜空と水面(ミナモ)に写るその花は、最後の時を迎えようとしていて、より一層沢山の花びらで上と下を二重に彩る。
幾つもの連弾が終わったかと思ったら、夜空は静寂に包まれた。
「……終わっちゃったね」
「いや……後もう一回…」
佐野君がそう言うと。
−−ヒュルルル…
一筋の光が空へと舞い上がり弾けると、今まで見たことも無い程の大きな花をひとつ、夜空一面に咲かせた。
「……わあ…凄い」
「最後に一番デカいのが上がるんだ」
夜空一面に広かった大輪の花びらは、さらに大きく広がって、ゆっくりと散っていった。
「はは…終わった…」
「……うん」
花が散ってしまった夜空は次に星空に変わり、私達は土手沿いの芝生の上に座ったまま、暫くその余韻に浸って星空を眺めていた。
花火って凄く綺麗で感動的だけれど、とても儚げで、それが終わった後の喪失感と空虚感で少しだけ寂しさを感じてしまう。
「佐野君は毎年見に来てるの?」
「いや、もう何年も見てなかった、去年の夏休みはずっと向こうに居たし、中学ん時は毎日今時期は夜遅くまで練習してたし…」
「……そっか、全国大会、控えてたんだもんね…」
「…うん」
「リョータ君達も今頃頑張ってるよね?」
「吐くまで練習してるさ…明日さ?朝、あいつ等ん所行ってくるよ」
「指導しに?」
「激励しに」
「一人で行くの?」
「うん。早朝だから、一人で行く、奏は美樹ちゃん達も居るから、ゆっくりしてて、直ぐに帰ってくるから」
佐野君はそう言うと立ち上がり、私に手を差し出した。
「帰ろうか?母さんに土産も頼まれてるし」
「うん」
その手を取り私も立ち上がる。