秘密
ドリブルでコートを軽く10週位したら次第に身体が乗ってきた。
徐々にスピードを上げて再びコートの中に戻り、リング目掛けて走り出す。
数歩の助走を付けて、ボールを両手に持ち、身体中のバネを使って思いきり高く跳ぶ。
ダンクシュート。
ハッキリ言ってダンクなんて試合では殆ど打つことなんて出来ない。
ダンクなんか出来なくてもバスケは出来る、でもこれは相手をビビらす為の俺なりの精神的攻撃。
誰よりも高く跳べるんだと言う俺の自己主張。
掴んだリングを離し、弾むボールを目で追っていると、視線の先に高田先生が立っていた。
「両手でリングにぶち込むなんて…相変わらず…ド派手なシュートだな…」
「うん。俺、派手好きだから」
先生は足元まで弾んで来たボールを片手で拾い上げると、ドリブルしながら俺に近付いてきて。
「やるか?久々に、1on1」
先生は挑むような目で俺を見るとニヤリと笑って見せた。
先生と1on1。
俺に見あった高さのやつが居なくて、きつい練習の後、他の仲間が帰った後でも俺が納得するまで練習に付き合ってくれた先生。
2メートル近い先生を相手に練習を重ねてきた俺は、敵の高さに臆する事なく向かって行ける強さを身に付けた。
二度の靭帯断絶でバスケ部に戻らなかった俺を見捨てる事なく、今もなお俺の行く先を導いてくれようとしている。
……………先生。
「……先生、ありがとう…」
「は?何だ?」
ダムダムとボールを弾く先生に俺の呟きは聞こえなかったみたいで。
「……いいよ。やろうか?先生ももういい歳だから、手加減してやるよ」
「何だと?元全日本をなめるなよ」
「最近少し腹が出てきたんじゃない?」
「……う、うるさいっ!」
「スキありっ!」
先生のボールを素早くスティール。
「あぁっ!お前ズルいぞっ!」
「油断してる先生が悪いんだ」
言いながらゴールに向かって走り出す。
「元全日本の意地、見せてやる!」
先生も俺の後に続いて走り出した。