秘密





「ハアハア…もう…ハア…これ位で、ハア…か、ゴホッ…勘弁、しといてやる…」


コートの真ん中で大の字に寝そべる先生が、息を切らせながらそう言って、俺も肩で息をしつつその場に座り込む。


「…先生…も…、歳…だね?ははは」

「ははは…ホント、だな…認めたくは、無い…けどな?」

「……俺も…スタミナ、落ちたぁ…」


言いながら俺も両手を広げて仰向けに。


体育館の床がひんやりと、火照った身体の熱を吸収してくれているみたいでとても心地いい。


高い天井に張り巡らせれている幾つもの照明を見つめていると、呼吸で忙しなく上下する胸も次第に落ち着いてきて、息も整ってきた。


ステージの横に設置されている、大きなアナログ時計に目をやると、30分以上は先生と1on1をやっていたようだ。


奪ったり、奪い返したり。


夢中になってひたすらボールを追っていた。



「………茜…」


3メートル程離れて同じ格好で寝そべる先生が天井を見つめたままそう言ってきて。


「……何?」

「……いいな、バスケットって…」

「…うん」

「また…始めてみないか?」


ドクンと心臓が脈打つ。


先生は天井から俺に視線を移し真っ直ぐに俺の目を見る。


俺はその視線に捕まってしまったかのように、目を反らす事が出来ない。


「アメリカに…行ってみないか?」


そう言われる事はわかっていた。


バスケの本場、アメリカ。

怪我をする前は憧れてやまなかった俺の将来の夢。

NBAプロバスケットボールリーグ。


「……先生…」

「何だ?」

「……俺…アメリカには行かないよ…」

「……何でだ?」

「…アメリカは…遠すぎるよ…」


先生…洋ちゃん…
ごめん。


やっぱり俺は奏の側に居たいんだ。


バスケはやりたい…


でも、奏が側に居ないなんて…
そんなのは耐えられない。


幼稚で我が儘な考えだとはわかってる、先の事を考えたら後悔するかも知れない。


けれど、こんな気持ちを抱えたままアメリカに行った所で結果は目に見えてる。


それが俺の出した結論……


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