秘密
守ってやりたい愛しい女の子を置いてここを離れたくない。
それだけ俺の中で奏と言う存在が大切で、大事な物と引き替えにしても奏と一緒に居られるなら、俺は奏と過ごす時を大切にしたい。
同級生ともあまり上手く関われず、少しばかり欠陥品だった俺は、奏のお陰で周りの景色が色付いて見えるようになった。
優しい気持ちを持てるようになったんだ。
先生は身体を起こし、その場に胡座をかいて座り直した。
「……お前にとっては遠すぎるかも知れないけど、今の時間を無駄に過ごすより…」
「今を無駄に過ごしてなんかないよ、俺は」
「…あ、いや、すまん、そう言う意味じゃなくて…」
「…わかってる」
俺も同じ格好で座り、組んだ足の間にボールを置き、先生と向かい合わせに。
「……ホントに行く気は無いのか?」
「……うん」
先生は深く息を吐く。
「……俺の、願いでもあったんだ…」
「願い?」
「ああ、お前には迷惑な話かも知れないけど…俺が果たせなかった夢をお前に託したかった…
若い頃は死に物狂いで頑張ってきた、人の倍練習だってしたさ。
でもな?人には各々持って生まれた才能みたいな物がある事は事実だ、いくら頑張ってもそこには届かない時だってある。
自分の限界が見えた時は辛かったよ、俺の力ではNBAなんて夢のまた夢……
俺は潔くコートを後にしたよ、幸い教員の資格は取っていたから、生活に困りはしないと安心して普通の生活を始めた。
でも、毎日バスケ三昧だった俺の胸には大きな穴が空いたような気になったよ…そんな生活も数年経てば慣れてきた。
そんな中、お前に出会ったんだよ。
茜…お前は誰よりも速く、高く、俺は天才と言うやつを目の当たりにして鳥肌が立ったよ。
卓越したバスケセンス…俺が求めていた物全て、お前は兼ね備えていた。
あの頃の夢が蘇って来た、こいつなら必ず世界的な選手になれる、俺が導いてやりたいって……
…でも、お前はお前だもんな…俺じゃない、お前の力を借りて、俺は自分の夢を追いたかっただけなのかも知れない…」
……ごめん、先生。