秘密


結局売店には行かず、駐車場に戻り、少し高台にある学校を目指し、バイクを走らせる。


坂道を走らせながら、中学時代を思い出す。


…この坂道。

毎日何往復ダッシュした事か。

吐くまで練習してたっけ。

……懐かしい。


学校の裏門から中に入り、来客用の駐車場にバイクを停めた。


部外者が校内に入っていいのかは謎だが、まあ、卒業生って事で。


「やっぱりここからも海が見えるね」


奏はフェンスの向こう側の水平線を、目を細めて眺めていた。


「俺は見慣れてるけどね」

「…凄く綺麗」


奏をバイクから下ろしてやると、フェンスに向かって歩き出し、フェンスを掴むとよじ登り出した。


「奏っ!何やってる?危ないって!」


俺は慌てて奏の腰をつかみ引き剥がした。


何やってんの?
この子は?


「だって…高い所から見たらもっと綺麗かなって…」

「…だからって何もフェンスよじ登らなくても…」

「…ごめんなさい」

しょぼんとうつ向く奏。


はぁ…
仕方ない。あそこに連れてくか。


「高い所連れてってやるよ」


俺は奏の手を引き、校内に侵入する。

日曜って事もあって、幸いあたりに人影はない。

開いている非常口から中に入り、階段を上がっていく。

三階の真ん中あたりに屋上へと続く狭い階段があり、突き当たると、ドアノブを思い切り引っ張る。

−ガコッ!

はは。
やっぱりまだ壊れたままだ。

この扉は鍵をかけてても、強く引っ張ると簡単に開くんだ。

天気のいい日はよく屋上で昼寝してたっけ。


ドアを開け、外に出ると一面のオーシャンビュー。

見渡す限りの水平線。


「……わあ…」


奏はそう言って外に出ると、手すりに向かって駆け出した。


「……凄い…綺麗…」


手すりを掴むと奏はそう呟き、じっと海を見つめた。


俺も奏の隣に立ち、同じように海を見る。


「…佐野君の街…来てよかった…ホントにありがとう、佐野君」


横から俺を見上げて笑う奏。


俺も、連れてきてよかった。


その顔が見れたから。



< 41 / 647 >

この作品をシェア

pagetop