秘密
結局売店には行かず、駐車場に戻り、少し高台にある学校を目指し、バイクを走らせる。
坂道を走らせながら、中学時代を思い出す。
…この坂道。
毎日何往復ダッシュした事か。
吐くまで練習してたっけ。
……懐かしい。
学校の裏門から中に入り、来客用の駐車場にバイクを停めた。
部外者が校内に入っていいのかは謎だが、まあ、卒業生って事で。
「やっぱりここからも海が見えるね」
奏はフェンスの向こう側の水平線を、目を細めて眺めていた。
「俺は見慣れてるけどね」
「…凄く綺麗」
奏をバイクから下ろしてやると、フェンスに向かって歩き出し、フェンスを掴むとよじ登り出した。
「奏っ!何やってる?危ないって!」
俺は慌てて奏の腰をつかみ引き剥がした。
何やってんの?
この子は?
「だって…高い所から見たらもっと綺麗かなって…」
「…だからって何もフェンスよじ登らなくても…」
「…ごめんなさい」
しょぼんとうつ向く奏。
はぁ…
仕方ない。あそこに連れてくか。
「高い所連れてってやるよ」
俺は奏の手を引き、校内に侵入する。
日曜って事もあって、幸いあたりに人影はない。
開いている非常口から中に入り、階段を上がっていく。
三階の真ん中あたりに屋上へと続く狭い階段があり、突き当たると、ドアノブを思い切り引っ張る。
−ガコッ!
はは。
やっぱりまだ壊れたままだ。
この扉は鍵をかけてても、強く引っ張ると簡単に開くんだ。
天気のいい日はよく屋上で昼寝してたっけ。
ドアを開け、外に出ると一面のオーシャンビュー。
見渡す限りの水平線。
「……わあ…」
奏はそう言って外に出ると、手すりに向かって駆け出した。
「……凄い…綺麗…」
手すりを掴むと奏はそう呟き、じっと海を見つめた。
俺も奏の隣に立ち、同じように海を見る。
「…佐野君の街…来てよかった…ホントにありがとう、佐野君」
横から俺を見上げて笑う奏。
俺も、連れてきてよかった。
その顔が見れたから。