秘密





「もっと腰を落とす!」

「はいっ!」

「レッグスルー!」

「はいっ!」

「タッグイン!」

「はいっ!」

「遅いっ!ほらっ!」


−−パシッ!


横を抜き去ろうとするマサトのボールを素早くスティール。


「あっ!」


俺はそのままボールを奪うとゴールを決める。


「10点先取…俺の勝ち」

「……ハアハア、チクショー…」


マサトは両手を膝に付いて肩で息をする。


「今のがスムーズに出来るようになれば上出来、流れは大体わかった?」

「ハアハア、はい…」

「後はひたすら練習」

「ハア…はい…」

「少し休め、朝から飛ばしすぎ」

「ハア、まだ、やれます、ハア…」

「ダメ。他のやつ等が来るまで休憩、命令」

「ハア、はい…」


マサトを促し体育館の隅に腰を下ろして、バッグの中から、来る途中にコンビニで買ってきた、冷凍のスポーツドリンクを取り出す。


もう殆ど溶けてしまっていて、結露でバッグの中まで濡らしてしまっていた。


蓋を開けて溶けてる分を一気に飲み干す。


「佐野先輩…」

「ん?」

「俺も佐野先輩みたいに強くなれますか?」


マサトは俺の顔をじっと見てそう聞いてきて。


「…マサトは俺よりも強くなれるよ」

「ホントですか!?」

「うん。ホント」

「……俺、ベンチ入り出来て凄く嬉しかったんですけど、県大会では緊張しちゃって、全然役に立たなくて…先輩達の足引っ張っちゃって…三年でレギュラーになれなかった先輩も居るのに…こんなで全国大会とか…凄く不安なんです…」


マサトはバスケを始めて一年弱、二年でベンチ入り、それだけでも凄い事なのに…


「場数を踏めばその緊張すら興奮に変わってくるよ、足引っ張ってるとか、そんな事ない、お前はこうして人一倍頑張ってる、それはリョータ達もわかってるから、だから、もっと自信持て」


そんな事……


俺が言える立場じゃ無いのはわかってるけど、マサトを見てると、どうしても片寄したくなる。


先生も俺に対してこんな気持ちを持ってくれているのかと、改めて申し訳なく思ってしまった。




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