秘密
マサトは俺と違って素直で従順だから、期待を裏切ったりしないで、数年後には有名な選手に育つに違いない。
リョータ達だってそうだ。
もしかしたら数年後、敵同士としてコートの上に立つ事もあるかも知れない。
ははは。
そうなったら面白そうだ。
その時、俺は何をしているだろうか?
普通の大学生か?
まだ響屋でバイトしてるかな?
恭介とアスカは?
ヨースケはパラリンピックに行けてるだろうか?
……俺と、奏は?
「先輩!」
大きな声がしてそちらに目をやると。
「おう。リョータ、おはよ」
戸口からリョータが駆け寄ってきて。
「奏さんは?何処ですか?」
キョロキョロと辺りを見回し。
「奏は来てないよ」
「へ?…そうなんですか?なんだ、残念…」
ガックリと肩を落とした。
お前は俺より奏に会いたかったのか?
「キャプテン、おはよっす!」
「マサト、お前また一人で練習してたな?あんまりやり過ぎるなって言ってるだろ?」
「すみません、後少しで大会だと思うと、時間が勿体なくて、最近は夜寝てても夢の中で練習してます」
「俺も同じだ、ははは」
……俺も同じだった。
「キャプテン、俺、佐野先輩と1on1やったんです、でも、一度も抜けませんでした…」
「はあ?何それ?ズルいぞ!先輩!俺とも1on1やって下さい!」
「もう勘弁してくれ、今日は奏と泳ぎに行くんだぞ、体力無くなる…」
「泳ぎに?下の海岸ですか?」
「うん」
「よしっ!今日の練習は遠泳だっ!」
「は?」
「マサト、先生は?」
「多分、教科室です」
「俺、先生に言ってくる!先輩!海でまた会いましょう!」
「ちょっ、何勝手に、リョータ!」
疾風のごとくその場から走り去ってしまったリョータ。
海水浴で賑わう海岸で遠泳なんか出来るもんか。
「海か…今年はまだ泳いでないな…」
呟くマサト。
「…バーベキューした時に泳いだだろ?」
「あれはシーズンオフなのでノーカウントです」
……そうですか。