秘密
◇◇◇






昨晩は殆ど眠れなくて、明け方少し明るくなりかけてきた頃、うとうとしかけた時に、隣の部屋のドアが開く音がして再び意識が呼び戻された。


枕元の携帯を見てみると、まだ午前5時前。


こんなに早くに……
まさか、佐野君?


なんて考えていると。


−−カチャ…


静かに部屋のドアが開いて佐野君が顔を覗かせた。


「佐野君…」


私は出来るだけ小さな声でそう言うと。


「ごめん、起こした?」


佐野君の声もひそひそ声。


拓也君と美樹ちゃんは、ベッドから少し離れたフローリングにお布団を敷いて、二人寄り添うようにしてぐすっりと眠っていて。

それを起こさないように佐野君は、私が横になっているベッドに忍び足で近付いてきた。


「ううん、起きてた、何だか寝つけなくて…」


佐野君はベッド脇にゆっくりと腰を下ろした。

私は身体を起こそうとしたけど、佐野君にやんわりと肩を押され再びベッドに横になる。


「寝つけなかった?ダメじゃん、まだ寝てろ」


優しく頭を撫でてくれる佐野君。


「もう行くの?」

「うん。朝練始まるから」

「随分、早いんだね…」

「出来るだけ涼しい内から練習しないと、あいつらもバテるからな」

「私も…行こうかな…」

「いいよ、直ぐ帰ってくるし、寝てないんだろ?まだ早いからゆっくり寝てな?」


額から頬に、撫でてくれる佐野君の掌は暖かく、ふわふわとした気持ちになって、次第に瞼が重くなる。


「…でも…」


一緒に行きたいな…


って声に出しそうとしたんだけど、言葉にならなかった。


佐野君の掌が私の頬で止まる。


…ああ……佐野君の手…
暖かい……気持ち…いいな……


「奏?…」


……何?、佐野君。


「ふ、寝ちゃったか…かわい」


……起きてるよ…
瞼が…重いだけ……


優しく唇に、暖かくて、柔らかいものが触れて。


「……奏、愛してる」


耳元を擽る囁きに私の全身は暖かさに包まれて、ふわりと身体が軽くなり、心地よい眠りの中へと誘われていった。



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