秘密
ふわふわ。
ゆらゆら。
私は真っ白で広い空間の中を、一人でぷかぷかと浮かんでいた。
そこは暖かくて心地よくて。
一人で居るのは勿体ないような気がしてきて、だれか居ないかなぁ、と辺りを見回してみた。
−−チリン…
何処からか聞き慣れた音が聞こえてきて、キョロキョロと周りを見渡すと。
「…シロ?」
シロがふわふわと宙を漂う私を下から見上げていた。
−−チリン…
シロは鈴を鳴らして私に背を向けて走り出した。
「あっ、シロ待って、どこ行くの?」
慌てて追いかけようとするけど、ふわふわ浮いている私は走る事が出来ず、手足をパタパタと動かすけど、シロの行く先に進む事が出来ない。
取り合えず下に降りなきゃ…
パタパタと手足を動かし、なんとか足が付く地面に着地する事が出来た。
シロが走り去った方向を目指して私も走り出す。
走り出すと周りの景色が色づき始めて、見慣れた風景が現れてきた。
そこは第三校舎の三階の廊下。
屋上に佐野君が居るかも?
なんて考えてしまって、私は屋上に続く階段を上った。
「佐野君?」
ドアを開けて呼んでみたけど、佐野君の姿はそこにはなく、貯水タンクがあるハシゴにも上ってみたけど、そこにも佐野君は居なかった。
……佐野君。
私は屋上を後にして、次に視聴覚室、教室、保健室、体育館。
あちこち走り回るけど佐野君は何処にも居ない。
佐野君処か校内には誰も居なくて。
生徒も先生も。
私は急に不安になってしまった。
「佐野君っ!何処っ?」
走りながら必死に佐野君の名前を呼んだ。
「あ、佐野君っ!」
長身の後ろ姿を廊下の向こう側に見付けて私はそちらに駆け寄った。
手を伸ばしてその手を取ろうとしたら、辺りはまた一面の白い空間に戻ってしまった。
さっきまでは心地いいと感じたこの空間も、急に寂しい物に感じて、私は涙が出てきてしまった。
佐野君が居ない色のない世界。
たった一人で、私はその場で泣き崩れてしまった。