秘密
「そろそろ戻ろうか?」
いつまでも放心したように、手すりを掴んだまま海を見つめている奏に俺はそう言った。
「うん」
奏はやっと手すりを離して、俺の顔を見ると、ニッコリと笑う。
その顔見れるようになっただけでも大きな進歩だ。
ゆっくりやっていこうと思っていた。
奏に嫌われないように。
…あの雷の日。
奏の方から俺に抱きついてきた。
雷が怖かったからだけかもしれないけど、奏も俺の事を少しは…
なんて期待してしまうのは、奏の方から目を閉じたから。
キスして欲しそうだったから。
浮気してるって奏は思ってるんだろうけど。
奏がそんな器用な人間だとは思えない。
どちらかと言うと、不器用な方じゃないかな?
俺は器用だけどね?(…多分)
だから、俺にも十分チャンスはあると思う。
今日みたいに沢山笑ってくれているのは、俺と居ると楽しいから。
それに比べて佑樹なんて…
と、思惑通りに事が運べばいいんだけどね?
俺ってば計算高い奴。はは。
だから今は浮気でもいい。
その方が都合がいいかもしれない。
奏は浮気だから。と俺に付き合ってくれている。
俺が本気だとは思ってないだろう。
一応彼女も居るしね?
でも、他の女なんてみんな奏の代わり。
俺にとって奏は初めて、異性としてホントに欲しいと思った女の子。
きっかけはあの時初めて会った時の笑顔。
保健室で佑樹に抱かれる奏。
身体中で欲しいと思った。
そしてその後泣いていた奏。
俺なら奏を泣かせない。
寂しそうな笑顔もさせない。
あいつから奪ってやる。
いつの間にかそう思うようになってた。
奏が居るくせに、浮気なんかしてんじゃねぇよ。
まあ、お陰できっかけが出来た訳だけどね?はは。
「…どうしたの?佐野君」
物思いにふけ、ぼんやりと手すりに寄りかかる俺の顔を、奏が首をかしげて除き込んできた。
「何でもない、行こう」
そう言って奏の手を取り、屋上を後にした。