秘密
「佐野君の教室に行ってみたいな…」
狭い階段を三階へと降りていく途中、奏がそう言ってきた。
「教室?三年の時のでいい?」
「うん」
俺も久しぶりの学校に懐かしさが込み上げてくる。
三年の教室はこの階だし、少し寄ってみるか?
三階に降りると、いちばん西側の教室へと向かう。
−3年D組−
引き戸を開け中に入る。
やはり窓一面のオーシャンビュー。はは。
「ここが佐野君の教室…」
奏も中に入ると、キョロキョロとあたりを見回す。
「ね?佐野君の席どこ?」
「…確か、最後の席は…」
俺は窓際いちばん後ろの席に移動して、椅子を引き、そこに座る。
「…懐かし…てか今の奏の席と同じだ…はは」
「あはは。ホントだ」
奏は俺の隣の席に座る。
誰も居ない教室。
微かにグラウンドから野球部の掛け声らしき声が聞こえてくる。
もうすぐ地区予選が始まるな。
バスケ部も今頃は体育館で顧問にしごかれているはず。
まだ顧問は高田先生だろうか?
「佐野君は何でこんなに遠くから、1人暮らししてまでうちの高校に来たの?」
「え?」
ドキリとした。
奏には言ってない。
俺がバスケが出来なくなって逃げ出して来た事。
情けなく、いじけた自分を奏に知られたくなかった。
俺が言葉に詰まって居ると、教室の引き戸がガラリと開き、ここの生徒か、男が驚いたような顔でこちらを見ていた。
そりゃ驚くだろう、俺達不法侵入だしね。はは。
「…佐野…先輩?」
そいつは俺の顔をじっと見てそう言った。
…ん?確かこいつは……
「……リョータ?」
俺がそう言うと、
「はいっ!リョータっす!」
リョータはニッと笑うと俺達に近づいてきた。
「てかその頭どうしたっすか?!ピアスまで、でもカッコいいっす!うわっ!彼女さんですか?スゲー綺麗な人ですね?さすが佐野先輩!あ、そこ俺の席です。携帯置きっぱにしてて取りに来たら、佐野先輩が居てびっくり!で?何でここに居るっすか?」
とリョータは一気に喋る。
奏は固まり、俺は立ち上がると、リョータの肩に片腕をガシッと回した。