秘密
登校日。
と言っても課題を提出してまた新たな課題を貰うと言う、どう考えても憂鬱な気分にしかならない日。
まだ夏休みに入ってから10日と経ってないって言うのに。
まあ進学校だから仕方ないんだけどな。
俺は塾や予備校になんて行く暇も無いし、課題が無ければ自ら進んで勉強なんてしないだろうから、俺としては丁度いいんだけど。
それに今年の俺には奏と言うブレインがついてる。
奏と二人でアパートに居る時は、殆ど勉強しかやってない。
(ホントはもっと別の事がしたいんだけどね?)
そろそろ大学も絞らないとな、文系は苦手だから出来れば理数で入試出来るとこ。
実家には帰らずに、このままこの街で通える大学を受験するつもり。
小中の教員の資格を取って教師になる。数学科で。
こうやって将来の事を具体的に考えていると、着実に大人へと近付いていくみたいで、ホントはまだまだ形にすらなってはいないんだけど、こういった段階を、ひとつづつクリアしていく事が、今の俺の立場を安心させる。
焦るな俺。
いくら佑樹の横に立つ奏がうつ向いていて、俺から視線を反らしていたって。
俺達の今の関係なら仕方の無い事だろ?
考え出すと沈みそうになる気持ちに、毎回そうやって自分に言い聞かせる。
そんな事を考えながら、担任の話を上の空で聞き流し、隣の席の奏の横顔をじっと見つめていると、不意に奏がこちらを向いた。
何?って、首を傾げながら俺に視線で問いかける。
ひとつに束ねられた髪がゆらりと揺れて、俺に笑顔を向ける。
何でもないよって俺が首を振ると、奏は再び笑うと正面に顔を向ける。
言葉は交わさなくても視線で会話出来るっていいよな。
それだけ気持ちが通じ合ってるって事だろ?
お互いに気持ちが通じ合ってさえいれば、今現在どんな状況に置かれていたって俺は我慢できる。
でも。
心の奥底には、直ぐにでも奏を独り占めしたくて、どうしようもなくガキな俺が時々顔を出してきて、不安を駆り立ててしまうんだ…