秘密
駅前ビルのパーティー……
以前奏がそんな事を言ってたな。
あのビルは佑樹の家の会社が建設したのか。
確かその日に父親と喧嘩したんだっけ。
ものすごい心配で、バイト抜け出してあちこち探し回ったんだよな。
結局俺のアパートに居たんだけど。
あの後、奏をおぶって家まで送って行った時に、俺の背中で大泣きした奏。
あんなに泣く奏は初めてだった……
「何で、教えてくんなかったの?カケルさん」
「言っても仕方ないだろ?第一俺には関係ないし」
「……意地悪だね、カケルさん」
「はは。ありがと」
「誉めてないよ」
カケルはポケットから携帯灰皿を取り出して、それに煙草を押し付けた。
「……奏ちゃん……、まだ目を覚まさないらしい」
「まだ…、意識が戻らないって事?」
「ああ」
事故からまる1日は経ってる。
まだ意識が戻らないって……
ホントに大丈夫なのか?
「茜」
「ん?何?」
「前にお前に言ったよな?俺」
「……何を?」
「ただ大切に、優しくするなら誰にだって出来る、お前はこれから、どうするつもりなんだ?」
カケルは携帯灰皿をパチンと閉じると、俺を真っ直ぐに見つめてきて。
さっき俺は、どんな形であれ奏と一緒に居たいと思ってしまった事が、急に情けなくなってしまった。
そんな事をやっていても、結局今となにひとつ変わらない。
俺は奏を独占したい。
俺だけの大切な人になってほしい。
この先も、ずっと一緒に二人で歩いて行きたい。
誰にも、奏を渡したくない。