秘密
七階の外科病棟のエレベーターから降りて、左右と見渡してみる。
右側の通路の方に外科の詰所があるようで、そちらに向かって歩いていく。
決して広くない通路の手すりに掴まり足をギプスで固定され、片足でケンケンしながら歩く小学生の女の子。
松葉杖をついて歩く男性。
車イスで移動するおばさん。
数年前の自分を思い出す。
初めて手術して入院した時に、俺もあの女の子みたいに、ああやって、ケンケンしながら走ってよく怒られたっけ?
松葉杖がもどかしくて、早く走れるようになりたくて、筋トレも兼ねて一人でよく病室から抜け出してたよな。
病院のまずいメシなんかじゃ全然足りなくて、腹減って売店に食い物買いに行ってた。
何だか。
ひどく昔の事みたいで懐かしい。
「コラッ!まりあちゃん、ダメじゃないか」
「あっ!見つかっちゃった」
「杖はどうしたの?」
「だってあれ歩くの遅いんだもん、ケンケンの方が早いよ」
俺の横を通りすぎた女の子は中二の頃の俺と同様、注意を受けていた。
振り返り見てみると。
「あ。岡崎先生……」
「ん?君は昨日の、確か…、佐野君、だったよね?」
「丁度よかった」
俺は岡崎先生まで近付き。
「昨日はTシャツ、ありがとうございました」
紙袋に入った洗ったTシャツを岡崎先生に差し出した。
「もう持ってきてくれたんだ?いつでもよかったのに」
岡崎先生は袋を受け取りながらそう言って。
「せんせー。このおにーちゃんお友だち?」
まりあと呼ばれた女の子はツンツンと岡崎先生の腕をつつく。
「え?えーっと。うん、友達だよ」
岡崎先生。
説明すんのが面倒くさいんだね。