秘密
「ほら、まりあちゃん。部屋に戻るよ?じゃあね。佐野君」
「おにーちゃん、佐野くんって言うの?下の名前は?」
まりあはひょこひょこと俺の前までやって来て。
「よっ…と、うわっ!?」
バランスを崩し俺の目の前でよろけてしまい、咄嗟に手を差し出しまりあを抱き止めた。
「大丈夫?」
「うっ…、うんっ。だっ大丈夫、ありがと。おにーちゃん」
まりあは俺を見上げ、慌ててそう言って。
「ほら、きちんと杖つかないから…、ありがとう、佐野君。まりあちゃん、もう部屋に戻るよ?」
岡崎先生が言うとまりあは。
「えー?だって退屈なんだもん…」
「あまり動き回ったら、怪我の治りが遅くなるよ?一日でも早く退院したいでしょ?」
「……はぁ〜い…、えっ?わっ?」
離れかけたまりあを俺は立て抱きに抱えた。
「俺は、茜って名前。まりあちゃんの部屋はどこ?」
まりあは一瞬びっくりしたような表情をしたけれど、すぐに笑顔になって。
「わあー。凄く高い!おにーちゃんパパより大きい!」
俺の顔を少し上から覗き込んだ。
にしても軽いな。
子供ってこんなに軽いんだ。
「ありがとう。佐野君、助かるよ。まりあちゃん直ぐに逃げ出すから、目が離せなくて…」
つい本音を溢す岡崎先生を無視してまりあは。
「あたしのお部屋あっち、766だよ」
「766?」
俺がまさにこれから向かおうとしていた所だ。
「丁度よかった、俺も今からそこに行くとこ」
「もしかして昨日入院してきたおねーちゃんのお見舞い?」
「うん。そうだよ」
まりあを抱えたまま。病室へと向かい歩き出す。
「……おねーちゃん、まだ目が覚めないんだ…、早くお友だちになりたいのにな」