秘密
「それは……、俺からは言えないかな……」
洋介さんは申し訳なさそうな笑顔を見せてそう言った。
記憶を無くす前……、私はそれを知っていたんだろうか。
結局……、私が思い出さない限り、佐野君の事は何一つわからない。
「ごめんね…これは佐野自身の問題だから、俺が口を挟んでいいものじゃないと思うんだ……、だけど…」
だけど……?
私は洋介さんの言葉の続きを待った。
「それでも俺は、佐野にはバスケを続けて欲しいって思ってる…、世界的なプレイヤーにだってきっとなれる。それだけの才能があいつにはあるから」
バスケットの事は私にはよくわからないけど、洋介さんにそこまで言わせる程の佐野君が、バスケットと同じ位に大切に思ってるものって一体……
「奏ちゃん」
考え込んでいる私の肩に不意に手を置かれて、振り向いて見上げてみると。
「小谷先生…」
「こんにちは。今日は検査だったんだよね?どうだった?」
「まだ検査結果は聞いてませんけど、もう痛みも無いから、随分良くなってると思います」
「そっかー。よかったね。頭の包帯もあと少しで取れるみたいだし、そろそろいいかなって思ってるんだけど…」
……あ。
そうだった、私には思い出す手立てがあるって事。
「今日、岡崎先生に聞いてみますね。勝手に決めたら怒られそうで…」
「あいつは堅物だからなー、でも。そこがまたいい所でもあるんだけどねー」
「そうですね。岡崎先生はとても真面目で優しくて、いい人です」
「俺だってやさしーよー、あはは。あいつは所詮いい人止まり。俺の方がモテるけどね?」
「は…、ははは…」
こう言う時の岡崎先生って対応に困ってしまう。
「あの…奏ちゃん、誰?コイツ」
岡崎先生を指差す洋介さん。
「あ。すみません、洋介さん、この方は…」
「君は奏ちゃんの彼氏?」
「……いえ。残念ながら、違います、友人です」
「そっかー。仲良さげに見えたから、彼氏かと思っちゃったよー、岡崎から奏ちゃんは彼氏持ちって聞いてたからさー、俺は研修医の小谷です。でも君、年上にコイツとか言っちゃダメだよ?あははっ。それとさー、奏ちゃん聞いてよー、さっき岡崎がさー…」
よく喋る小谷先生とは逆に、黙ってしまった洋介さん。