秘密
「あのっ、小谷先生」
取り合えず、ひとりで話す小谷先生を一先ず中断させた。
お見舞いに来てくれているおばあちゃんをこれ以上待たせるのは申し訳なくて、早くおばあちゃんの所に戻らないと……
「ん?何?奏ちゃん」
「えっと…あっ、私の彼…、もう直ぐ海外に行くんです」
咄嗟の事とは言え、私ったら何を言っているんだろうか…
「へー。そうなんだ」
小谷先生はさして気にする風でもなくて、そう言ったけど、次に洋介さんが。
「奏ちゃん。それってホント?」
「え?あ…はい。ホントです」
「なーんだ、そっか。俺が心配する必要、無かったんだな…」
「おいっ!小谷っ!」
小谷先生の名前を呼ぶその声の方に目をやると、談話室の入り口から小谷先生目掛けて歩いてくる岡崎先生。
「お前はまたこんな所で、自分の持ち場に戻れ」
「げ……、岡崎…、今から外来に向かう所だったんだよ…」
「早く行け」
「ハイハイ。わかってるよーだ、じゃあね、奏ちゃん、またねー♪」
笑顔で私に手を振り、小谷先生は足早に談話室から出ていくと、岡崎先生が大袈裟にひとつため息をついた。
「全く……あいつは…」
「岡崎先生。こんにちは」
今日初めて合う岡崎先生に私はそう言った。
「こんにちは。奏ちゃん。レントゲンの検索結果伝えに来たんだけど、お客さんみたいだね?」
岡崎先生は洋介さんをチラリと見て、そんな岡崎先生に洋介さんは軽く頭を下げた。
「病室に行ったらまりあちゃん休んでから、ここかなって思って…、でもお客さんならまた後にしようか?」
検査の結果は早く知りたいけど、せっかくお見舞いに来てくれたおばあちゃんをこれ以上待たせる訳には……
「そうですね…」
「いいよ奏ちゃん、俺達もう帰るから、検査結果聞いてきなよ」
「でも…」
もっとお話ししたかったし、佐野君の事も、もっと聞きたい…
「近いうちにまた来るよ」
「すみません…」
「いいって、でもよかった…、佐野のヤツ、言う事はちゃんと言ってたんだな…」
「え?何がですか?」
「いや、何でもないよ…、ばあちゃん。そろそろ帰ろうか」
言いながら洋介さんは立ち上がり、おばあちゃんが待つテーブルへと向かっていった。