秘密
1時間目が終わり、そろそろ奏も登校してくるかな?と思い、教室から窓の外を見てみたけど、そんなに都合よく奏の姿が発見出来る訳じゃなく、ちょっとガッカリ。
トイレにでも行くか。
立ち上がり教室を出ると、美里が怒ったように腰に手をあて、目の前に立っていた。
「昨日何でメールくれなかったの?」
そう言えば美里から何件かメールが来てたな…
帰って風呂入って直ぐに寝たから、携帯開いたの朝のアラームが鳴ってからだった。
しかし、何でメールしない位で怒るんだ?
「バイトで帰り遅くなって、疲れたから直ぐに寝た」
「…だからって…メール位…」
美里はまだ何か言いたげな様子。
あ〜。めんどくせ。
「俺、毎日バイトで忙しいって言ったよね?そん位の事でいちいち文句があんなら俺なんかやめれば?」
そう言って美里の横を通りすぎようとしたら、俺の腕を美里が掴んでひき止めた。
「ごめんっ、茜。怒んないで…」
お前が怒ってたんだろが?
「あたし、茜とはまだ付き合い始めたばっかだけど、全然付き合ってるっぽい事してくれないし…寂しくて…なんか茜、冷たいし…」
だから浮気すんのか?お前は?
だったら佑樹を悩殺してこいよ?
…こいつ、思ったよりめんどくさいな…早めに別れるか?今まで通りほっといたら、俺から自然と離れていくだろう。
俺はもう奏以外欲しくない。
「…あの…」
教室の入口を塞いでいた俺達に遠慮がちな声がして、思わずドリキとした。
その声が奏のものだったから。
見ると奏はマスクをしていて、少し目も腫れているみたいだった。
「…奏?風邪か?」
俺が言うと、美里が掴んでいる俺の腕にギュッと力を込めた。
あ。ヤバ、今、奏って呼んでしまった。
…俺のバカ。
「…茜?奥村さんの事名前で呼んでるの?」
「…うん。席、隣だし、自然と、ね?」
「…あ、うん。そうなんだよ、日直とか、当番も一緒になるし、はは」
「…そうなんだ」
「ほら、お前もう行け、奏が入れないだろ?」
俺は美里の腕を軽く振りほどく。
そこに丁度2時間が始まる予礼が鳴る。
美里は一瞬チラリと奏を見て、自分の教室に戻っていった。