秘密
「…ごちそうさまでした」
両手を合わせ、合掌する俺。
「美味しかった?」
「…死ぬほど」
「あはは。佐野君、大袈裟」
俺は立ち上がり、食器を流しに下げると蛇口を捻る。
「あっ、いいよ佐野君。後で洗うから」
「いや、このくらいはやらせて、食器洗いは得意だ、バイトでいつもやってるしな」
「…そう?ありがと」
俺は食器を洗いながら奏に話しかけた。
「日曜の事なんだけど、ホントに大丈夫?また彼氏と喧嘩になったり…」
奏はテーブルを拭く手を止めた。
「……大丈夫だから、そんな事気にしないで…」
「でも、朝早いよ?暗くなる前には帰るつもりだけど…」
「…また行きたいって言ったじゃない…それに佐野君のバイク…また乗りたい…」
「…そっか、またお尻痛くなるぞ?あはは」
「今度は大丈夫だもん、乗るの慣れたから…多分…」
「それとも、電車で行くか?」
「…ううん。バイクがいい…」
…また可愛い事言ってくれちゃって…
「洗ったのどこ置けばいい?」
「後でまとめて乾燥機に入れるから、そのままでいいよ」
「そうか?じゃ、俺そろそろ帰るよ」
「えっ?もう帰っちゃうの?」
出来れば帰りたくないんだけどね。
「父親、帰ってくるだろ?それに…あんまりここに居ると…さっきみたいになるかも知れないから…」
俺がそう言うと、奏はうつ向き、俺から視線を反らした。
「…あの…さっきは…ごめんなさい…って、何言ってるんだろ?私…あはは…」
狼狽えてる、狼狽えてる。ははは。
「じゃ、帰るよ」
ダイニングの隅に置いたバッグを肩に担ぐ。
「…うん」
「カレー旨かった」
「…また今度…何か作るね?佐野君は何が好き?」
…奏が好きだ。
「…ハンバーグ」
「そう言えば、ファミレスでもハンバーグ食べてたね?」
奏の事が…
「うん。大好き」
「じゃ、今度はハンバーグ作るよ」
「……作ってくれるの?」
「…佐野君が…よければ」
「大歓迎」
玄関で靴を履き、振り返ると奏が携帯を差し出した。
「…番号…交換しよ?」
「あ、忘れる所だった」
赤外線で交換完了。