秘密




「…ごちそうさまでした」

両手を合わせ、合掌する俺。

「美味しかった?」

「…死ぬほど」

「あはは。佐野君、大袈裟」

俺は立ち上がり、食器を流しに下げると蛇口を捻る。

「あっ、いいよ佐野君。後で洗うから」

「いや、このくらいはやらせて、食器洗いは得意だ、バイトでいつもやってるしな」

「…そう?ありがと」

俺は食器を洗いながら奏に話しかけた。

「日曜の事なんだけど、ホントに大丈夫?また彼氏と喧嘩になったり…」

奏はテーブルを拭く手を止めた。

「……大丈夫だから、そんな事気にしないで…」

「でも、朝早いよ?暗くなる前には帰るつもりだけど…」

「…また行きたいって言ったじゃない…それに佐野君のバイク…また乗りたい…」

「…そっか、またお尻痛くなるぞ?あはは」

「今度は大丈夫だもん、乗るの慣れたから…多分…」

「それとも、電車で行くか?」

「…ううん。バイクがいい…」

…また可愛い事言ってくれちゃって…

「洗ったのどこ置けばいい?」

「後でまとめて乾燥機に入れるから、そのままでいいよ」

「そうか?じゃ、俺そろそろ帰るよ」

「えっ?もう帰っちゃうの?」

出来れば帰りたくないんだけどね。

「父親、帰ってくるだろ?それに…あんまりここに居ると…さっきみたいになるかも知れないから…」

俺がそう言うと、奏はうつ向き、俺から視線を反らした。

「…あの…さっきは…ごめんなさい…って、何言ってるんだろ?私…あはは…」

狼狽えてる、狼狽えてる。ははは。

「じゃ、帰るよ」

ダイニングの隅に置いたバッグを肩に担ぐ。

「…うん」

「カレー旨かった」

「…また今度…何か作るね?佐野君は何が好き?」

…奏が好きだ。

「…ハンバーグ」

「そう言えば、ファミレスでもハンバーグ食べてたね?」

奏の事が…

「うん。大好き」

「じゃ、今度はハンバーグ作るよ」

「……作ってくれるの?」

「…佐野君が…よければ」

「大歓迎」

玄関で靴を履き、振り返ると奏が携帯を差し出した。

「…番号…交換しよ?」

「あ、忘れる所だった」

赤外線で交換完了。



< 96 / 647 >

この作品をシェア

pagetop