秘密
◇第4話◇
◇◇◇



「…おっ…お帰りなさい」


佐野君が帰った後、頭がポヤンとしてしまって、そのまま玄関先に立ち尽くしていたら、いきなりお父さんが帰ってきて、私は慌てて現実に戻ってきた。

…だって…

抱き締められて、おでこにキスなんて…

佐野君が好きな私にとってそれは反則だ…

足下がフワフワしたような感覚になって、恥ずかしいんだけど、ずっとそうしていて欲しいような感覚になってしまう。

佐野君はそんな事慣れてるかも知れないけど…
私はあまりそんな事された事ないから…

佑樹にキスされても、抱き締められても、あんな感覚になった事はない。


…佐野君。
カレー美味しかったって。
三杯も食べてくれた。
ハンバーグが好きって。
意外とお子様メニューが好きなのかな?


「…奏?なんかいい事でもあったか?」

「えっ?別に何も?何で?」

「いや、顔がニヤケてるから…」

やだ、私ったら…

「…あはは、ちょっと思い出し笑い…」

「そうか、あ。明日から1週間出張になったよ」

「出張?」

「うん。突然だけど、一人で大丈夫か?」

今まで2〜3日の出張はあったけど、1週間の出張は初めてだ。

「大丈夫だよ。1週間位、心配しないで」

「そうだな、奏はしっかりしてるし、家の事も何でも出来るしな?先に風呂入るよ」

「うん。今日はカレーだよ?」

「あはは。昨日もカレーだろ?奏の作るカレーは旨いよ。それにカレーは二日目が旨いんだ」

お父さん。
佐野君と同じ事言ってる。
ふふふ。


……ダメだ。

つい佐野君の事考えてしまって、口許が緩んでしまう。

「さっき階段で金髪の大学生位の男とすれ違ったよ、あんな子このアパートに居たっけ?」

…佐野君の事だ…
お父さんとすれ違ったんだ…

あんな所…父さんに見られなくてよかった…。

「…知らない」

「軽そうな男だったから、気を付けるんだよ?一人の時はキチンと鍵閉める事」

…軽そうって…お父さん…

「…うん。わかった」

手に持ったままの携帯が震動して、開いて見ると佐野君からのメール。


『お父さんに見られなくてよかったね』


…ホントだね。

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