赤い狼 弐
「ふぇっ、ごめっ…さい、」
泣いちゃ駄目。
私が悪いんだから。
泣くな、泣くな。
一生懸命、自己暗示を掛ける。
そんな時…
「おい。何泣かせてんだ。」
普段からは想像が出来ない、とても刺々しい声が隣から聞こえてきた。
その声の正体は…―――隣に寝ていた要。
要は隼人から私を庇うようにして立ち、隼人に鋭い視線で睨んでいる。
「そこ退け。」
隠れて隼人の姿は見えないけど、苛々しているのが通常のよりも低い声で分かる。
「嫌だね。」
でもそんな隼人に怯まずに、むしろ逆に煽るような言い方をする要。
…―――一触即発。
正に、二人の間はそんな雰囲気だった。
その二人の光景を見ている私は、この状態をどうにかできないものか。
と足りない頭でグルグルと考える。
でも、何も思い付かない。
ギャグを一発披露してみるとかっ!?
いや、でも披露した瞬間に隼人にゴミ箱に頭を突っ込まれる可能性があるから止めとこう。
うん。
そうしよう。
塚…もっとましな事を思い付かないのかっ!?
本当、どうにかしてほしい。
誰か、こんな考えしか浮かばない私を止めてくれ。
本気でそう思う。
…でも…私の耳に届いた声で私の思考は完全に止まる事となる。
「…あの…取り込み中わりぃんですが…只今、帰ってきました。」