顧問と私たちと旅行部な時間
「それより……」


 耕二の言葉に、落ち着きを取り戻した那歩は、雑誌を棚に置き、耕二へ歩み寄った。

「他に近い高校があったのに、この高校にした理由は、やはり1つか?」


 那歩が高校受験期間中、耕二は離れた地で教師をしていたこともあり、家庭教師まがいのことはおろか、どこを受験するかなど、受験に関して一切介入していなかった。

 だが、那歩の趣味を知っていた耕二には、この錦ヶ丘高校を受験した理由に心当たりがあった。


「もちろん、旅行部よ!」


 この学校には他校では珍しい「旅行部」が存在する。
 錦ヶ丘高校創設以来の長い歴史があり、旅行部に在籍した生徒たちは、高い就職率で旅行会社へ入社しているのだ。


「もう、この学校にはいるのが楽しみで楽しみで仕方なかったんだから」


「今から就職の心配か?」


「ここの旅行部に入れば就職は心配しなくて良いって良く聞くけど、純粋に旅行が出来ればいいの」


「その旅行部だがな、今は休部中だ」


 那歩に視線を向けずに、プリントに目を通している耕二に、那歩は目を丸くして驚いた。
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