きみの声がきこえない

ひとの気持ち


蝉が忙しなく鳴いている。

声に声が重なり、耳をつくようだ。


何だか懐かしいような、

そんな不思議な気持ち。


あたしの能力はいつのまにか消えてしまった。

もう誰の心の声もきこえてこない。


「秀くん。あたし、大人になったかな?」

「ブラックコーヒーを飲めるようになったことが?」

「違うよ、心の問題だよ」


あたしは目の前の真っ黒いコーヒーを見て笑った。


「でもさ、ちょっと惜しい気もしてきた。

あんな能力でも、なくなっちゃうと」



秀くんは微笑みながら、

やっぱり優しい目であたしを見た。
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